脳と腸は常に情報を交換しあってお互い影響を及ぼすことが徐々に解明され、やっと最近になって「脳-腸相関」についての研究が本格的にすすみ始めています。
その中で、腸内細菌のかかわりについても少しずつ明らかになりつつあり、どの腸内細菌がどのような疾患にかかわっているかというところまでわかりはじめてまいりました。
しかし、まだまだわかっていないことの方が多いというのが現況です。
乳酸菌が免疫力を高める作用が期待できることはすでによく知られていますが、それ以外にも、睡眠や抗アレルギー作用に乳酸菌入り飲料やヨーグルトが発売されていることからもわかるように腸内細菌は様々な疾患とかかわりをもっています。
そもそも脳腸相関における腸内細菌のかかわりが世界でも注目されるようになったのは、腸内細菌を持たない無菌マウスを用いた研究報告が発表されてからです。
無菌マウスは腸内細菌を持つ通常マウスに比べ、ストレスに対して過敏であること、脳の神経系を成長させるための因子が少ないことなどが分かり、無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると多動や不安行動が正常化するという報告などから、腸内細菌はストレスの感じ方や脳の神経系の発達・成長、そして行動に関わる存在であることが示唆されています。
さらに最近の研究で、がん免疫治療薬(オプジーボなど)と腸内細菌とのかかわりについても知られてきました。
がん免疫療法は、手術・放射線・抗がん剤治療に続く「第4のがん治療法」と言われており、抗がん剤や分子標的薬などと比べても、がん免疫治療薬の効果が出て3年間生きられると、5年、10年と再発が抑えられる可能性が高いと言われています。
その中で、腸内細菌叢の環境を整えることでがん免疫治療薬の効果を高める可能性について昭和大学医学部で研究が進められています。
昭和大学医学部で研究されるようになったきっかけは、「腸内細菌の違いによって、がん免疫治療薬の効果が左右される」というマウスを使った研究報告でした。
同じ種類と同じ週齢のマウスであるのに、飼育先の会社によってがん免疫治療薬の効果が違うことに気づいた海外の研究チームがその原因を探ったところ、餌などの飼育環境の違いによって治療薬の効果を左右していることや、無菌マウスにがん免疫治療薬を与えても治療効果が現れないことがわかりました。
これをきかっけにヒトでも検証を重ねた結果、がん免疫治療薬の治療効果のなかった患者の腸内細菌に比べて、治療効果のあった患者の腸内細菌は多様性に富んでいることや、治療前に抗生物質を服用している方はがん免疫治療薬の効果が現れにくいことなどがわかりました。
さらに、昭和大学の研究チームデータ分析から、オプジーボの効果があった患者さんの腸内にビフィズス菌が多いことや、腸内細菌の多様性があったこともわかっています。
まだまだ腸内細菌と病気についての解明は研究途上にありますが、今後ますます解明されていくことを期待します。
腸内細菌と病気についての詳細がまだ明らかになっていない現時点では、日常的に乳酸菌やビフィズス菌入りの飲料やヨーグルトの積極的な摂取、およびオリゴ糖や食物繊維の積極的な摂取などの他、例えばエンテロコッカス・フェカリス菌配合サプリメントの積極的な摂取なども補完代替医療の立場から有用かも知れません。