東北大学の研究グループは3月23日、気管支ぜんそく(アレルギーぜんそく)の原因が「2型自然リンパ球」というリンパ球の活性化であることが明らかになったと発表した。気管支ぜんそくを含むアレルギー疾患の新たな治療法開発につながる可能性があるという。
これまでアレルギー疾患の治療で注目されていたのは、アレルギー反応の制御や他の免疫細胞の活性化に関係する免疫細胞「T細胞」だったが、研究グループはこの細胞の表面に現れる「GITR」というタンパク質が、2型自然リンパ球にも存在することを発見。GITRが2型自然リンパ球を活性化することを明らかにした。
2型自然リンパ球は、気管支ぜんそくが起きるときに最初に活性化する免疫細胞で、これが活性化しなければアレルギー反応は起こらないという。
そこで研究グループがGITRを持たないマウスに薬剤で気管支ぜんそくを誘発する実験を行ったところ、自然リンパ球は活性化せずマウスはぜんそくを起こさなかったという。また、研究グループが開発したGITRを阻害する物質をマウスに投与した場合も、マウスはぜんそくを起こさなかった。
これにより気管支ぜんそくを引き起こしているのは、GITRで活性化した自然リンパ球であることが明らかになった。この結果は、気管支ぜんそくを含むアレルギー疾患の治療法、アレルギー治療薬の開発につながる可能性があるという。
(2018年3月23日 産経新聞)
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東北大、気管支ぜんそく発症の原因を明らかに アレルギー疾患の新治療法開発へ
肝細胞の再生力、化合物で向上…重症肝硬変の改善などに期待
人の肝臓の細胞(肝細胞)に2種類の化合物を加えて若返らせ、強い再生能力を持たせることに成功したとの研究結果を、国立がん研究センター研究所などのチームがまとめた。重症の肝硬変などの再生医療につながる可能性があるという。21日に横浜市で開かれる日本再生医療学会で発表する。
肝細胞は通常あまり増えないが、ウイルス感染などで肝炎になると活発に増殖する状態に変わり、傷ついた組織を再生しようとする。同研究所の勝田毅研究員らのチームは、人の肝細胞に、細胞の増殖などに関わる80種類の化合物を様々な組み合わせで加えた。すると、うち2種類を同時に加えると、ウイルスに感染した時と似た状態になり、急速に増殖した。
この細胞を慢性肝炎のマウスの肝臓に移植すると、8週間後に肝臓の9割以上が人の肝細胞に置き換わった。肝機能の指標になるアルブミンの量も、人の血液に近い濃度で分泌した。
肝臓の再生では、様々な細胞に変わるiPS細胞(人工多能性幹細胞)などから肝細胞へ変化させる研究が行われている。だが現段階では、この細胞をマウスに移植しても肝臓を完全に再生しない。アルブミンの量も今回の1万分の1程度にとどまっているという。
チームの落谷孝広・同研究所分野長は「重症の肝硬変や非アルコール性の肝炎、肝がんなどの再生医療につなげたい」と話す。
宮島篤・東京大教授(分子細胞生物学)の話「複数の遺伝子を導入して作るiPS細胞より、化合物を使った方が安全性は高いだろう。肝細胞をどのように入手するかが課題だ」
(2018年3月18日 読売新聞)
がん治療に「ナチュラルキラーT細胞」…慶大など、医師主導の治験へ
慶応大学と理化学研究所などは12日、進行、再発したがんを対象に、新たな免疫療法の医師主導臨床試験(治験)を共同で始めると発表した。白血球に含まれる「ナチュラルキラーT(NKT)細胞」を活性化させて治療するもので、動物実験では、1回で約1年効果が続いたという。
NKT細胞は、谷口 克 ・理研グループディレクターらが発見した免疫細胞。他の免疫細胞を長期にわたって活性化し、がんを縮小させる効果があると考えられている。患者の血液を採取し、特殊な物質を加えて培養した上で患者に戻すとNKT細胞が体内で活性化し、免疫反応が強まる。動物実験では、がんの種類を問わず、進行や転移を抑制できたという。
治験は、慶応大を中心に実施。20~74歳の進行、再発がんの患者12~18人を登録し、患者の血液を培養して作ったものを4週間あけて2回、点滴投与する。12月まで患者を集め、3年間にわたり生存率などを見る。安全性や効果が確認され、治験が順調に進めば、6年後の実用化が期待できるとしている。
谷口氏は「自分の血液を使うのでアレルギー反応などが少なく、既存の免疫治療薬との併用で効果の上乗せも期待できると考えている」と話す。
(2018年3月12日 読売新聞)
がん攻撃阻む遺伝子解明 京大などマウスで実験
血液のがんの一種「慢性骨髄性白血病」について、生体内の細胞の移動を制御する遺伝子「Sipa(スパ)1」が失われると、免疫細胞が白血病細胞を攻撃して病気を治すことをマウスを使って突き止めたと京都大の研究グループが発表した。体に本来備わっている免疫機能を利用したがん治療薬「オプジーボ」と同じメカニズムを白血病治療にも活用できる可能性を示す成果という。
論文が英科学誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で2日、掲載された。
慢性骨髄性白血病は全ての白血病のほぼ2割を占める。研究グループによると、正常なマウスに白血病の原因となる細胞を注射すると全て白血病で死亡したが、人為的にSipa1を欠損させたマウスは全く発症しなかった。また、正常マウスでは白血病細胞が増え続けるが、欠損マウスでは一定の時期から白血病細胞が減ったとしている。
更に欠損マウスを詳しく調べた結果、免疫細胞が白血病細胞の組織に入り込んでいる様子が確認できた。白血病細胞付近に、傷の治癒などに役割を果たす細胞が集まり、それを目印に免疫細胞が移動。通常はSipa1が免疫細胞の動きを制御しているが、なくなることでブレーキが解除された状態になり、白血病を治癒させたとみられる。
ただ欠損マウスでは白血病が完治した後、他の病気にかかりやすくなった。このため、ヒトに応用する場合は、Sipa1を無くすのでなく、働きを一時的に制御する薬が必要になる。研究に携わった京都大副学長で大学院医学研究科の湊長博特命教授は「白血病根治につながる新たな免疫療法の確立につながれば」と話している。
(2018年3月2日 毎日新聞)
痛み・副作用が少ない最先端がん治療…重粒子線センター、大阪に来月開院
がんの新しい放射線治療を行う「大阪重粒子線センター」(大阪市中央区)が3月に開院するのを前に、16日、内部が公開された。
重粒子線は放射線の一種で、従来の放射線治療より高い効果が期待できるという。同種施設は西日本では3か所目だが、交通の便のよい都心部での立地は初めて。
同センターは大阪府が誘致し、民間事業者が設置・運営する。総整備費は約150億円。西日本では、兵庫県たつの市と佐賀県鳥栖市の施設に次いで完成した。
府庁などに隣接する同センターには、直径17メートルの円形加速器が設置され、炭素イオンを光速の約70%まで加速した重粒子線を作り出す。患者は、重粒子線が照射される3台の治療台にそれぞれ横たわって治療を受ける。
対象は外来患者のみで、年間800~1200人を想定。頭頸部 や肝臓、肺などの様々ながん治療が可能で、4月に保険適用が始まる前立腺がんは3週間の通院治療で済むという。今春以降、診察や検査を行い、10月に照射を始める予定。
溝江 純悦 センター長は「痛みや副作用が少ない最先端の治療法。好立地で通院もしやすい」と話した。
(2018年2月23日 読売新聞)
血管を生み出す幹細胞 マウスで発見
大阪大の高倉伸幸教授(幹細胞医学)の研究グループが、血管の内側を覆う血管内皮細胞を生み出し、血管を新しく作ったり、維持したりする力を持つ幹細胞をマウスで見つけた。ヒトでも確認できれば、血管が詰まって血流が悪くなる心筋梗塞(こうそく)や、血管内皮細胞からの血液凝固因子の分泌不足で血が止まりにくくなる血友病の新しい治療法につながる可能性がある。
研究成果は9日、米科学誌「セル・ステムセル」(電子版)に掲載される。
(2018年2月9日 毎日新聞)
アルツハイマー病、血液で判定 治療薬開発に期待
国立長寿医療研究センターと島津製作所などの研究グループは、微量の血液からアルツハイマー病の発症に影響するとされるタンパク質などを計測し、アルツハイマーにつながる病変の有無を早期に高精度で判定できる技術を開発した。31日付のネイチャーオンラインに発表した。血液からの検出法の確立は世界初で、アルツハイマー病の鑑別や治療薬開発などに役立つと期待される。
アルツハイマー病は、発症する20~30年前から脳内に異常タンパク「アミロイドベータ」がたまり始めることが知られている。蓄積の有無を確かめるには、脳脊髄液を採取するか、高額な検査を受ける必要がある。
グループは、アルツハイマーの原因物質とされるアミロイドが脳にたまり始めると血液中に流れ出なくなり、血中に流れるその他2種類のアミロイドとの量に差が出ることに着目。この比率を計測し、脳内蓄積の有無を判定する検出法を編み出した。結果を検査で確認すると、アミロイドの蓄積がある人を9割以上の精度でとらえられていた。
アミロイドの蓄積がある人が必ずアルツハイマー病を発症するわけではないが、この検出法は治療薬や予防薬の開発に必要な発症リスクがある人を安価で早期に抽出できるほか、認知症の患者がアルツハイマー型かどうかの鑑別にも役立つ。島津製作所の田中耕一シニアフェローは「世界の健康長寿に貢献できるチャンスだ」と話している。
(2018年2月1日 毎日新聞)
遺伝子改変で免疫細胞強化…新がん免疫療法、名古屋大が2月から臨床研究
免疫細胞の遺伝子を改変してがんへの攻撃力を高め、急性リンパ性白血病の患者の体内に戻して治療する臨床研究を、名古屋大学が2月から始める。2年後の承認を目指している。
この治療は「CAR―T(カーティ)療法」と呼ばれる。患者本人から免疫細胞の一種のリンパ球を取り出して遺伝子を操作し、白血病細胞を見つけて攻撃しやすくする。
米国で昨年承認され、抗がん剤が効かなかったり、骨髄移植しても再発したりして他の治療法がない患者に効果を上げている。国内では自治医科大学などが臨床試験を進めている。
高額な治療費がネックとなっているが、名古屋大学の手法は、遺伝子の操作でウイルスを使用する代わりに酵素を使うため、従来よりコストを大幅に削減できる可能性があるという。
臨床研究は来年12月までに、1~60歳の難治性の患者12人に実施し、有効性と安全性を確認する。
研究代表者で同大小児科教授の高橋義行さんは「急性リンパ性白血病は子どもに多い病気で、日本の技術を使って安価に治療を提供したい」と話している。
(2018年1月31日 読売新聞)
パーキンソン病 、カフェイン血中濃度、健康な人の3分の1
手足などがうまく動かせなくなるパーキンソン病の患者は、健康な人に比べて血液中のカフェイン濃度が低いことを順天堂大のグループが発見した。新たな診断法や治療法の開発につながる可能性がある。4日付の米専門誌に発表された。
パーキンソン病は手足が震えたり、転びやすくなったりするなどの症状が徐々に進行する。体の動きを調節する脳の神経細胞の減少が原因とされる。
コーヒーなどに含まれるカフェインにパーキンソン病の予防効果があることは最近の複数の研究で分かってきた。研究グループは、患者の血中のカフェインに着目。患者108人と健康な人31人のカフェイン濃度を比較したところ、患者のカフェイン濃度は健康な人の3分の1程度しかなく、カフェイン関連9物質の濃度も低かった。また同じ量のカフェインを摂取しても患者の血中濃度は健康な人ほど高くならなかった。
カフェインには脳の神経細胞を保護する役割があるとみられる。グループは、パーキンソン病の患者は小腸でカフェインを吸収する力が弱いため血中濃度が低くなり、発症リスクが高まると結論づけた。
同大の斉木臣二准教授(脳神経内科)は「採血による早期の診断法を開発し、発症予防や病状の進行抑制につなげたい。カフェインを皮膚から吸収できる薬の開発も進める」と話している。
(2018年1月4日 毎日新聞)
笑いで認知症予防 吉本とコラボ
大阪府立病院機構「大阪精神医療センター」(大阪府枚方市)は10日、吉本興業と枚方市と連携し、「笑い」を活用する認知症予防のプログラムを実施すると発表した。若手芸人が参加者とゲームをしたり、吉本新喜劇の座員が記憶力などを高めるミニコントを演じたりする。今月末から3月まで計4回予定し、笑いの効果を検証する。同センターは「認知症予防を身近に感じてもらいたい」と話している。
昨年9月から同センターの認知症予防プログラムを受けている60歳以上の枚方市民約30人が参加する。二人三脚の足をティッシュペーパーで縛ってリレーする「二人そっと三脚」や、鈴の音を頼りにアイマスクを着けたゾンビが追いかける「ヒトゾン」などのゲームを若手芸人と楽しむ。
吉本新喜劇の川畑泰史(やすし)座長ら座員が出演し、座員の服装が次々と替わる様子を見ながら替わった箇所を見つけるゲームや、うどん屋を舞台に客の複雑な注文を一緒に記憶するミニコントなども予定する。
同センターは2015年度から、枚方市と共同で認知機能の低下を防ぐプログラムを実施。参加者に積極的に楽しんでもらおうと、「笑い」を取り入れた企画を考えた。終了後に参加者の認知機能をテストして検証し、今夏には公表する予定。
(2018年1月10日 毎日新聞)