米国の製薬会社バイオジェンは、2020年の承認申請を目指しているアルツハイマー病の治療薬「アデュカヌマブ」について、認知機能の低下を約2割抑えられた、という治験(臨床試験)の結果を公表した。米食品医薬品局(FDA)が承認すれば、長期に症状の悪化を抑えられる初めての薬が誕生すると期待される。
認知症全体のうち、6割以上をアルツハイマー病が占める。異常なたんぱく質「アミロイドベータ(Aβ)」が脳内にたまり、神経が傷ついて発症、進行するとみられている。申請を目指す薬は、異常なたんぱく質を取り除く働きを持つという。
バイオジェンは17年10月から、国内の製薬大手エーザイと共同開発している。
バイオジェンは、4~7日に米国で開かれた学会「アルツハイマー病臨床試験会議」で、早期のアルツハイマー病の患者らを対象にした治験の詳しい結果を報告した。薬を使わなかった約550人に比べ、使った約550人では1年半後、認知機能の低下を22%抑えられた。
(2019年12月11日 読売新聞)
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アルツハイマー新薬候補、認知機能の低下2割抑える…米企業報告
脳腫瘍、血液1滴で判定…国立がん研開発・精度9割
国立がん研究センターなどの研究チームは、悪性度の高い神経 膠腫こうしゅ (グリオーマ)などの脳腫瘍を、血液1滴から9割の精度で判定できる検査法を開発したと発表した。脳腫瘍の早期の診断や治療につながる可能性がある。
血液中の微小物質「マイクロRNA」の種類や量が、がん患者と健康な人では異なることに着目した、血液検査によるがんの判定方法は、卵巣がんなど13種類で開発が進んでいる。
研究では、脳腫瘍患者266人と脳腫瘍ではない314人の血液中のマイクロRNAを比較し、特に神経膠腫の患者で量に差がみられる3種類のマイクロRNAを特定、95%の精度で神経膠腫を判定できた。他の種類の脳腫瘍では89~100%の精度だった。さらに48種類のマイクロRNAを分析することで、画像では見分けにくい脳腫瘍の種類を分類することも期待できるという。
同センター中央病院脳脊髄腫瘍科の大野誠医師は「手足のまひなど症状が表れる前に、体へ負担をかけずに脳腫瘍の診断につなげられる」と話している。
(2019年12月12日 読売新聞)
スポンジ詰めて細胞増殖促す、新たな鼓膜再生法に保険適用
耳の病気やけがで破れた鼓膜を再生させる新しい治療法に、公的医療保険が適用されることになった。治療法の開発に関わった北野病院(大阪市北区)によると、治療は20分程度で済むといい、保険適用を機に広く普及を目指す。
同病院の金丸真一・主任部長らが開発。鼓膜にできた穴の周囲を切除して薄くし、細胞増殖を促す薬を含むゼラチン製のスポンジを穴に詰め、医療用の生体接着剤で固定する。スポンジは耳の中で自然に分解される。穴の周辺の細胞が増殖し、数週間で穴が塞がる。
鼓膜の治療としては、耳の後ろ付近の組織から筋肉を包む膜を切り取って移植する手術が年間1万件ほど行われているが、数日から2週間の入院が必要で、鼓膜より厚い膜を使うため聴力回復も限定的だった。
金丸主任部長らは2007~16年に、今回の方法で計約420人の患者を治療し、7~8割で聴力が改善するなどした。鼓膜そのものが再生するため、従来法よりも高い治療効果が期待できるとしている。
保険適用は11月19日付で、自己負担3割なら1万8000円で治療を受けられる。同病院は今後、他の医療機関にもノウハウを伝える方針だ。
(2019年12月16日 読売新聞)
入れ歯を毎日手入れしない高齢者、肺炎発症リスク1.3倍
入れ歯の手入れを毎日はしない65歳以上の高齢者が肺炎を発症するリスクは、毎日手入れをする人より1.3倍高いという研究結果を東北大などのチームが発表した。75歳以上に限ると、リスクは約1.6倍に高まった。高齢者の肺炎は命にかかわるため、入れ歯清掃の重要性が示された形だ。
相田潤・東北大准教授( 口腔衛生学)らは、2016年に行われた高齢者調査の結果を基に、入れ歯をブラシで磨いたり、洗浄液に浸したりする頻度と、過去1年間の肺炎発症との関係を調べた。
その結果、肺炎になる割合は、手入れを毎日する人が2.3%、毎日はしない人は3.0%だった。75歳以上では、毎日する人が2.9%、しない人は4.3%だった。性別などの影響を除くと、毎日は手入れをしない人の肺炎リスクは1.30倍、75歳以上は1.58倍高かった。
入れ歯の清掃が不十分だと、付着した細菌が増殖。唾液や食物と一緒に気管に入ると、肺炎のリスクが高まる。高齢者の場合、のみ込む力の衰えが要因だが、頬周辺のマッサージや発声練習で改善できる。
(2019年11月19日 読売新聞)
アルツハイマー早期診断 血液一滴でOK…名古屋市立大開発
認知症の7割を占めるとされるアルツハイマー病の早期診断を、一滴の血液で可能にする手法を開発したと、名古屋市立大の道川誠教授(神経生化学)らの研究チームが発表した。すでに製品開発を進めているという。
アルツハイマー病では、患者の脳に異常なたんぱく質「アミロイドβ(ベータ)」が蓄積することが知られている。ワクチン療法などの治療法が開発されているが、発症後は効果が限定されるため、早期診断の重要性が指摘されている。診断には脳脊髄液を採取する検査などがあるが、患者の負担が大きかったり、検査できる施設が限られたりするなどの問題がある。
健常者とアルツハイマー病患者などの計72人について、血清などに含まれる物質を比較。患者の髄液や血清では「フロチリン」というたんぱく質の濃度が大幅に低下していることを確認した。アルツハイマー病発症の前段階である軽度認知症でも、フロチリン濃度の低下がみられたという。
(2019年11月6日 朝日新聞)
関節炎で骨を不必要に破壊…「悪玉破骨細胞」を発見
関節炎で骨を不必要に破壊する「悪玉破骨細胞」を発見したと、大阪大の石井優教授(免疫学)らの研究チームが発表した。関節リウマチの新しい治療法の開発につながる可能性があるという。
骨を破壊する「破骨細胞」には、傷付いた古い骨を壊して健康に保つ役割がある。これまでは、破骨細胞は1種類しかなく、異常に活発になると骨を壊し過ぎて、関節炎などが起きると考えられてきた。
研究チームが関節炎のマウスの細胞を詳しく調べたところ、破骨細胞には「善玉」と、体のどこかの炎症から生じる「悪玉」の2種類があり、悪玉の破骨細胞が不必要に骨を破壊していることが判明した。
悪玉の破骨細胞ができるのに必要なたんぱく質の働きを薬で抑えると、関節炎の症状が改善した。人間の関節リウマチ患者の細胞を使った実験でも、同様の結果が得られたという。
(2019年11月19日 読売新聞)
異常免疫細胞 化合物で変換…京大など発見 新薬開発に期待
体内の臓器などを誤って攻撃する異常な免疫細胞を、免疫反応にブレーキをかける正反対の免疫細胞に変える化合物を発見したと、京都大やアステラス製薬(東京都)のチームが発表した。免疫異常で起きる関節リウマチなどの新薬開発につながる可能性がある。
免疫細胞の中には、異常な免疫反応を抑える「制御性T細胞(Tレグ)」がある。
Tレグ発見者として知られる京大客員教授の坂口志文・大阪大特任教授らは、アステラス製薬が持つ約5000種類の化合物を調べ、異常な免疫細胞をTレグに変化させる化合物を見つけ出した。皮膚炎や1型糖尿病のマウスに1日1回ずつ約2週間飲ませたところ、何もしなかったマウスより症状が抑えられた。目立った副作用もみられなかったという。
この化合物には、Tレグで働く遺伝子を活性化させる作用があるため、異常な免疫細胞の一部がTレグに変わったとみられ、坂口さんは「今後は変換効率を高め、副作用が強い免疫抑制剤に代わる薬を開発したい」と話す。
(2019年10月28日 読売新聞)
胃の分泌ホルモンで運動意欲アップ 久留米大チーム発表
動へのモチベーションを高めるのに、胃が分泌するホルモン「グレリン」が重要な役割を果たしていることを久留米大医学部の研究チームがマウス実験で突き止め、21日、発表した。研究チームは「生活リズムを改善するとグレリンが増えて運動意欲が高まり、肥満治療にもつながる」と期待している。
久留米大動物実験センターの御船弘治特命准教授と同大医療センター糖尿病センターの田尻祐司教授らの研究グループは、グレリンをつくる遺伝子を無効化したマウスで実験を繰り返し、グレリンがなくても摂食に影響はないものの、自発的に行う運動量が少なくなることに着目。運動量が低下したグレリンのないマウスに食事のリズムに合わせてグレリンを投与すると、運動量が回復した。食事のリズムが規則正しくなればグレリンの分泌は是正され、脳内のドーパミン分泌を促し、運動意欲を高めると考えられる。逆にリズムが乱れるとグレリンの分泌リズムも乱れ、運動不足につながるという。
(2019年10月23日 朝日新聞)
「かゆみ」仕組み解明へ、アジア初の研究拠点 順天堂大が開設
順天堂大学大学院・環境医学研究所(千葉県浦安市富岡)は、かゆみの原因や治療法を研究する「順天堂かゆみ研究センター」を設置した。抗ヒスタミン薬や保湿剤など既存の治療薬が効かない「難治性かゆみ」の克服に取り組む。かゆみの治療に特化した研究機関は米国とドイツで近年相次いで設立されているが、アジアで初めてという。
同研究所は2002年に設立され、文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」などの助成を受けて、難治性かゆみの発症の解明と予防・治療法について研究してきた。更なる研究と治療法の確立を目指して、研究所にセンターの設置を決めた。センター長は研究所の所長で、高森建二・同大学院特任教授(皮膚科学)が就いた。
(2019年10月4日 毎日新聞)
iPS由来の角膜細胞、阪大が患者に移植…世界初
大阪大は29日、他人の細胞をもとにしたiPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った目の角膜の細胞シートを、重い目の病気「角膜上皮幹細胞疲弊症」を患う40歳代の女性患者の左目に移植する手術を行ったと発表した。
手術は7月25日に実施。女性は日常生活に支障がない程度まで視力が改善しているといい、今月23日に退院した。iPS細胞から作った角膜の細胞を移植する手術は世界初。
女性は両眼が失明に近い状態だったが、左目は本や新聞が読める程度まで視力が回復しているという。
従来の治療では、亡くなった人から提供される角膜を移植しているが、手術後、強い拒絶反応で移植した角膜がはがれ落ち、1年以内に再び見えなくなるケースが多いことが課題だ。
チームによると、iPS細胞から作ったシートは長い治療効果が期待できるという。今回は治療の安全性や有効性をみる臨床研究のため、移植は左目だけに行い、1年間かけて経過を観察。来年度までに、さらに成人患者3人に手術を行う。
(2019年8月29日 読売新聞)