2023年のはじめ、「くすりの話」の「偉いシリーズ」に「コーヒー」も仲間入りしました。
この時には、主にコーヒーに含まれているポリフェノールのひとつ「クロロゲン酸」の効果について、国立がん研究センター予防研究グループやお茶で有名な伊藤園の研究を中心にご紹介させていただきました。
今回は、国立大学法人筑波大学とダイドードリンコ株式会社の共同研究報告についてご紹介させていただきます。
以前には、クロロゲン酸が体内で「フェルラ酸」という物質に代謝され、認知症の予防・改善に有用である可能性をお伝えさせて頂きましたが、この度はマウスを用いた研究から、コーヒー由来成分の「トリゴネリン」が認知機能改善効果を発揮する可能性についてお伝えさせていただきます。
近年、加齢に伴う認知機能低下を改善する天然物質の探索は、健康的な老化を実現させるために重要な課題となっていますが、自然発症老化促進モデルマウスを用いた研究により、コーヒーの他、大根などにも含まれている「トリゴネリン」が、空間学習記憶能を有意に改善し、そのメカニズムとして神経系の発達やミトコンドリア機能、神経伝達物質の放出に関連するシグナルの活性化によるものであるということが発見されました。
さらには、NF-κBの活性化をネガティブに調節して神経炎症を抑制することや、たんぱく質定量解析により、海馬領域において炎症性サイトカインTNFα、IL-6が有意に減少し、神経伝達物質のドパミン、ノルアドレナリン、セロトニンを増加させていることも確認されました。
以上のことから、「トリゴネリン」は、加齢に伴う空間学習記憶(自分の居場所の認識)障害の予防改善に有用である可能性が示唆されました。
この度の研究報告から、「やっぱりコーヒーは偉かった」と思わせていただきました。
但し、コーヒーにはカフェインが含まれていますので飲みすぎには注意をしなければなりません。
多くても1日5杯までを目安にされますことを念のため申し伝えます。
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やっぱりコーヒーは偉かった!
先発医薬品の使用で自己負担額が増える?!~後発医薬品(ジェネリック医薬品)の供給は大丈夫?~
これまでも、患者さんの希望で後発医薬品(ジェネリック医薬品)のある先発医薬品(いわゆる長期収載品)の処方箋医薬品を受け取る場合に、後発医薬品との差額の一部を保険外の「選定療養」とすることが何度となく議論されてきました。
「選定療養」とは、社会保険に加入している患者さんが、追加費用を自身で負担することにより、保険適用外の治療を、保険適用の治療と併せて受けることができるようにすることです。
選定療養扱いになると、1割や3割といった負担割合ではなく、その一部が保険外の扱いとなり自己負担が増える仕組みです。
厚生労働省では、昨年12月から後発医薬品のある先発医薬品の「選定療養」について本格的な議論を始めており、詳細については今後明らかになってくるものと思われます。
現時点では、今回の制度の対象は後発医薬品の上市後5年以上経過したもの、または後発医薬品の置換率が50%以上となったものが対象で、後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3が保険給付の対象となる方向で進められています。(正式決定は4月の予定です)
ということは、価格差の4分の1については、0割負担の患者さんでも自己負担が発生し、1割負担の患者さんも3割負担の患者さんも同額の負担増になります。
後発医薬品の使用は約20年間も国の施策として後押しされていますので、そろそろ医療費抑制のひとつの政策として実施に踏み切っても良いように思う反面、最近の後発医薬品不足はかなり深刻な状況であることから、今はその時期ではないようにも感じます。
今回の変更で、先発医薬品を好んで使用していた患者さんの一定数は後発医薬品に変更すると思われますので、ますます供給困難な状況を作り出し、混乱を招くことが容易に予想できます。
この度議論されている長期収載品の選定療養扱いは10月スタートを予定している様子ですが、医薬品の安定供給はまず困難な状況である中、国としてどのように安定供給への対策を考えているのか何ら示されていません。
個人的には、もし後発医薬品のある先発医薬品の「選定療養」を実施されるようなら、国民の不安を払拭するためにも、国としてきちんと説明をしていただき、誰もが納得できるわかりやすい制度を作っていただきたいと思うと同時に、製薬会社各社においても、医薬品の製造という社会的責任を重く受け止め、1日も早く医薬品を安定的に供給できるように努めていただきたく思います。
アルコール手指消毒の落とし穴!特に小児に気をつけたいこの時季の感染症!
最近になってようやく新型コロナウィルス感染症の感染予防対策としてアルコール手指消毒やマスクの着用なども日常に定着し、感染拡大が落ち着いているようにも思われます。
しかし、ここで油断は禁物です。
アルコール手指消毒の定着は良いことではありますが、それに伴って、通常の手洗いがおろそかになる傾向が増えているという報告もあります。
ここが大きな落とし穴です。即ち、「アルコールで消毒しているから大丈夫」と過信するあまりに、通常の手洗いがおろそかになったり、大型店舗の入り口に設置されている消毒の様子を見ていると、「ちょっとアルコールで手を湿らせる程度」の方も多く、それで「消毒できた」と自己満足されている方が多いように見受けられます。
アルコールでの手指消毒は、十分な液量を使用して、ある一定の時間を擦り合わせるという、正しい方法で行わなければ十分にウイルスをやっつけることはできません。
さらに、この冬の時季は、そもそもアルコールでは十分に消毒出来ないウイルス感染にも注意が必要です。
その代表的なウイルス感染は、感染性胃腸炎とも呼ばれているノロウイルスです。
ウイルスの中には、アルコール消毒が有効なウイルスと、無効のウイルスが存在しますが、ノロウイルスは通常のアルコール消毒では消毒効果が期待できないウイルスのひとつです。
ノロウイルスは、乳幼児から高齢者まで幅広く感染し、激しい嘔吐や腹痛を伴いますが、嘔吐物の処理などの消毒には次亜塩素酸ナトリウムを使用します。
アルコール消毒で効果を発揮しないウイルスといえば、その他にも特に乳幼児に急性胃腸炎を引き起こすロタウイルスがあります。
ロタウイルスは非常に感染力が強く、重症化すれば入院することもあり、稀に合併症を引き起こすこともあります。
このように通常のアルコールでは十分に消毒出来ないウイルスがあることや、正しくアルコール消毒が出来ていない場合もあることなどを考慮して、やはり基本に立ち戻って「石鹸を使用して、流水でしっかりと手を洗う」ことが最も大切だということを、再認識することも大切だと思います。
なお、最近では通常の消毒用アルコールを酸性にした「酸性アルコール消毒液」が発売されており、これであればノロウイルスやロタウイルスの消毒にも有効ですので、念のため申し添えます。
やっぱり魚は偉かった!
かなり以前になりますが、「くすりの話」で「大豆は偉い」、「乳酸菌は偉い」、「魚は偉い」と「偉い」シリーズとして皆様にご紹介し、大豆と乳酸菌については「やっぱり偉かった」シリーズとしてご紹介しています。
この度は「やっぱり偉かった」シリーズに「魚」も仲間入りしましたのでご紹介させていただきます。
まずは、以前にご紹介している「魚は偉い!」について少しおさらいしておきます。
魚の何が偉いのか?
それはタンパク質などの栄養成分の他に、魚の油に含まれている「DHA」や「EPA」が身体によい作用が報告されているからです。
これらは血液サラサラ効果や中性脂肪低下作用、心血管系疾患の罹患率や死亡率の低下、不整脈の抑制、インスリン分泌増強およびインスリン感受性増強作用、抗ストレス作用などの他、認知機能改善作用、抗ウイルス作用などを有する報告があることをお伝えいたしました。
中でも中性脂肪低下作用については医薬品として医師が処方している実績もありますし、認知機能予防・改善作用についても研究が重ねられています。
さてこの度、DHAやEPAに代表されるω3(オメガスリー)脂肪酸が、肺機能低下や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予防に役立つ可能性が報告されました。
肺機能低下や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症には炎症が関与していることはすでに知られており、ω3脂肪酸は抗炎症作用を有することも知られています。
そこで、そこで米国コーネル大学の研究グループがω3脂肪酸の血中濃度と肺機能、気流閉塞との関連性を調べ、その研究成果が論文に掲載されました。
研究結果では、血中ω3濃度が高いと肺機能低下が抑制され、その効果はDHAが最も大きいこと、脂肪酸摂取量に占めるDHAの割合が増加すると肺機能低下が抑制され、気流閉塞の発生率が低下することがわかりました。
このように魚に含まれる栄養素の摂取により、様々な疾患に対して良い作用をもたらす可能性が次々と報告されていますので、魚もめでたく「やっぱり偉かった」シリーズの仲間入りに認定したいと思います。
えっ! ホントに医薬品でもなぜ効くのかわかっていないものもある?
サプリメントは「エビデンス」がないから推奨しないという医師も見受けられますが、いつもお伝えしているとおり、現在の医薬品のルーツは、主に自然に生息する植物や動物の食経験の中から発見されたものがたくさんあります。最近では、食品中に含まれる物質の「ファイトケミカル」が注目されており、私たちの健康に様々な有用作用があることも知られています。
これらは食品中に含まれる成分で、よほど大量に摂取しないかぎりは安全に食することができて、健康に良い作用を有しています。漢方薬も長年の経験の積み重ねで薬になっています。
医薬品は「エビデンスがあるから良い」、サプリメントは「エビデンスに乏しいからダメ」ということは一概には言えないと思っています。
医薬品は合成された物質で、いわゆる副作用など、身体への負担もつきものです。
副作用もわかっているものであればまだしも、予期せぬ副作用を生じることもあります。
さらには、誰もが知っている薬が、「なぜ効くのか」ということが未だにわかっていないものもあります。実例をあげると、「アセトアミノフェン」もそのひとつです。
アセトアミノフェンと言えば、コロナワクチンの副反応の発熱を抑制するためによく使用されたこともあり、名前ぐらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。
このアセトアミノフェンは、医薬品として発売されてから100年以上も経過しているのですが、一般的な非ステロイド抗炎症剤(ロキソニンなど)と違って、解熱・鎮痛効果を有するのに、抗炎症作用はほとんど期待できません。
そして、なぜ抗炎症作用がほとんど期待できないのかということについては実は謎に包まれている状態なんです。
最近になってやっと中枢神経系に存在するCOX-3を選択的に阻害することにより解熱・鎮痛効果を発揮すると考えられるようになりましたが、これもまたCOX-3阻害作用と解熱・鎮痛効果の相関性が弱いことから、また振り出しにもどりました。
でも、やっとごく最近、アセトアミノフェンの代謝産物の「AM404」という物質が関与しているという説が有力になり、研究が進められていますので、今後の研究成果に期待したいところです。
このように医薬品であってもわかっていないこともあるということを思うとき、食経験のある食品成分の摂取(サプリメントを正しく摂取すること)は、私たちの健康維持に大切なことかも知れません。
薬はグレープフルーツジュースと一緒に飲まないでくださいね!
薬局でお薬をもらうときに「グレープフルーツジュースと一緒に飲まないでくださいね」と説明している場面を経験したことはないでしょうか。
高血圧症でお薬をもらっている方はよく耳にしているかも知れません。
これはグレープフルーツに含まれる「フラノクマリン」が薬物代謝酵素CYP3A4を阻害することにより、高血圧症のお薬のひとつカルシウム拮抗剤の効果を高めてしまうことが知られているからです。
それでは、注意するのは「グレープフルーツジュース」だけで、他の柑橘類、例えばオレンジジュースなどは大丈夫なのかなと気になりませんか?
同じ柑橘類でも「フラノクマリン」が含まれているものと、ほとんど含まれていないものがあります。
「フラノクマリン」を含む柑橘類は、例えばグレープフルーツの他にブンタン、ハッサク、夏みかん、ダイダイなどがあります。
一方、「フラノクマリン」が含まれていないのもとして、例えばバレンシアオレンジ、レモン、温州ミカンなどがあります。
ですので、正しく言えば「グレープフルーツジュースと一緒に飲まないでくださいね」ではなくて、「フラノクマリンを含む柑橘類と一緒に飲まないでくださいね」となるのですが、こんなことを言っても患者さんはピンときませんので、代表的な飲み物として「グレープフルーツジュース」と説明しています。
ちなみに、グレープフルーツは果汁より皮の部分に「フラノクマリン」が多く含まれてるので、グレープフルーツをまるごと絞ったジュースでなければ過剰に気にしすぎることもないかと思われます。
また、同じカルシウム拮抗剤であっても、CYP3A4の影響が少ないお薬もありますが、薬剤師は、万一お薬の効果が強く出すぎて、めまいやふらつきなどの副作用が生じるといけませんので、「グレープフルーツジュースと一緒に飲まないでくださいね」と説明しています。仮に間違えて飲んでしまったとしても、体調に変化がなければ過剰に心配することはございませんのでご安心ください。
余談になりますが、CYP3A4で代謝されるお薬は、カルシウム拮抗剤の他にも、脂質異常症でよく処方されている「スタチン系医薬品」や、睡眠導入剤の「ハルシオン」なども知られています。
例えば、就寝前に睡眠導入剤「ハルシオン」をグレープフルーツジュースなどで飲むと、薬の作用が強く出すぎることもありますので、特に高齢者は注意が必要です。
逆に、花粉症でよく使用されるフェキソフェナジンやビラスチンなどのお薬は、グレープフルーツジュースなどで服用すると作用を減弱する可能性もあります。
このように作用の増強・軽減の可能性がありますので、グレープフルーツジュースなどで服用してしまったときは、過剰に気にされずに数時間の経過観察をすれば良いですが、お薬を服用するときは、水またはぬるま湯で服用するのが安心・安全につながることだと言えます。
魚を食べると頭が良くなるってホント?
皆さんは、「おさかな天国」という歌を聞いたことがありますでしょうか?
「さかな、さかな、さかな~、さかな~を食べーると~、あたま、あたま、あたま~、あたまーが良くなる~」という歌ですが、聞けば「あ~、知っている」という方が多いと思います。
歌にもなっているぐらいですから、さぞかし魚を食べると頭が良くなるのかと思われる方もいるかも知れませんが、残念ながら魚を食べるだけで頭が良くなることはございません。
それではなぜ、このような歌があるのかといえば、魚には頭に良い成分の「DHA」や「EPA」などが多く含まれているからです。
特に青魚と呼ばれる「イワシ、アジ、サンマ、サバなど)に多く含まれています。
これらは、多価不飽和脂肪酸の中でもω3(オメガスリー)脂肪酸に分類されている成分で、DHAは脳の発達にも欠かせない成分であることがわかっており、DHAと学力についての研究成果も多数報告されています。
また最近注目されている注意欠陥多動性障害(ADHD)の子供のω3脂肪酸の血中濃度は低いこともわかっていますので、ADHDのお子様にもDHAなどの摂取が有用かも知れません。 さらに、加齢に伴う脳機能障害やアルツハイマー病、うつ病などはDHAの摂取で予防や改善が期待できることもわかってきました。
実は、コレステロールや中性脂肪を下げる脂質異常症のお薬として、DHA・EPAを含むお薬も処方されているんです。
ご高齢者で脂質異常症の方は、この薬を服用することで認知症を予防する意味でも有用かも知れません。
このように実力派のDHA・EPAですから、子どもへの食育という観点から、魚に含まれるその他の成分、例えばカルシウムやビタミンD、たんぱく質なども摂取できますので、特にお子さまには「魚を食べると頭が良くなる」ということで、魚好きになってもらうことは、良いことかも知れませんね。
「唾液力」を高めよう!
今回の薬のはなしは、「唾液」の話をさせていただきます。
唾液、すなわち「つば」の事ですが、小学校の理科の授業では、「アミラーゼという酵素がデンプンを分解する働きがあるため、よく噛んで食事をすることが大切です」と教えられた記憶があります。
また、小さいころには、ちょっとしたケガのときには「つばでもつけておいたら治る」と言われたことがありますが、実は唾液には細胞を活性化させる「グロースファクター(成長因子)」が含まれており、粘膜や皮膚の表層細胞を活性化させて傷を治しやすくする作用がありますので、ちょっとしたケガのときに「つばでもつけておいたら治る」は、単なる気休めだけのことではなく、的外れなことではないという側面もあります。
最近、「唾液力」という言葉も出てきたくらいに「唾液」について見直されてきています。
そこで、知っていそうで知らない唾液についての話題を今回のテーマに選びました。
最近の研究によって、唾液の質と量が感染症や生活習慣病を予防と深くかかわっていることがわかっており、神奈川歯科大学の槻木教授によれば、唾液中のわずか1%の中に健康に役立つ成分が100種類以上も含まれており、中でも免疫グロブリンA(IgA)という成分が感染症から身体を守ってくれているのだと言います。
即ち、唾液はインフルエンザや細菌の感染から身体を守ってくれているのです。
さらに、最近の研究では、同じ唾液でも唾液の質も注目されており、インフルエンザに感染しやすい人と感染しにくい人を比べると、感染しにくい人の唾液には「結合型シアル酸」という成分が多いことがわかってきました。
さらには、唾液は、認知症やうつ病の予防にも役立つことや、HSP-70(ヒートショックプロテイン-70)という、抗ストレス作用を有するタンパク質によって上気道感染抑制にも役立っている可能性が報告されています。
ところが、高齢になるにつれて唾液の分泌量がどんどん減少し、うまく食事を呑み込めなくなることで誤嚥性肺炎の原因になることも指摘されています。
そこで日常生活の中で唾液の量の低下を防ぐための工夫をしていくことが大切です。
唾液の量の低下を防ぐ工夫として、よく噛んでゆっくり食事することや、ビタミンCやポリフェノール、CoQ10などの抗酸化食品の摂取が良いと言われています。
さらに、唾液の量を増やすだけでなく唾液に含まれるIgAの量も増やすことも大切です。
「腸-脳相関」という言葉が広く知られるようになっていますが、それに加えて「腸-唾液腺相関」という言葉も知られるようになってきましたが、腸内環境を整えることによって唾液中のIgAを増やせることがわかり、例えば食物繊維の豊富な食べ物を摂取することもおすすめです。
食物繊維の摂取により腸管を刺激して、唾液腺にIgAの分泌シグナルが送られて、唾液中にIgAを増やしていくと言われています。
また、食物繊維と発酵食品を同時に摂取することで、腸内で乳酸菌が食物繊維をエサとして増えていくことで、腸内環境を整えて唾液力を高めると言われています。
日常生活の中で、食事の工夫をはじめとして、様々な「唾液力」を高める工夫を重ねながら健康を維持してまいりましょう。
市販薬、侮るなかれ! 薬は正しく服用しましょう!
OTCと呼ばれている一般市販薬は、有効成分の安全性が確立されている上に、医療用医薬品と比べても有効成分の含有量が少なめに設定されているため、安心して服用できるというイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
もちろん、適切に使用されている範囲であれば安全性が高く、基本的には心配するようなことは少ないのですが、決められている服用量よりも自分勝手に多く服用すると、中毒症状が現れることがあります。
今でこそ、販売数量が規制され、一人1個(本)までの購入しか認められていない「咳止め薬」がありますが、そこに含まれている「ジヒドロコデイン」や「メチルエフェドリン」などの成分は、中枢神経興奮作用を有し、高揚感や多幸感をもたらす副作用があります。その副作用による高揚感や多幸感を得たいために、一度に何個(本)も購入し、中毒症状を起こす事例が問題視される時期もありました。
これらの医薬品は決して安価でないことや、規制がかかったこともあり咳止め薬による中毒症状発生事例は激減しました。
一方で、販売に規制がかかっていない上記の成分の入った風邪薬で代用しようと試みる方も少数ながら未だに存在しているようです。
風邪薬を大量に服用すると、上記の成分の他に、当然ながら他の成分も大量に服用することになります。
例えば、風邪薬の中には、コロナワクチン接種時の副反応を抑えることで話題になった成分の「アセトアミノフェン」という解熱鎮痛剤を含有していることがあります。
「アセトアミノフェン」を大量に服用すると、これがまた厄介な中毒症状を引き起こし、救急外来に搬送される事例も報告されています。
アセトアミノフェンは、肝臓で代謝されグルタチオンで解毒されるのですが、アセトアミノフェンを大量に服用するとグルタチオンが足りなくなって解毒できなくなるため、急性肝不全を引き起こすことがあります。
急性肝不全を引き起こした3週間後の死亡率は非常に高率であることが報告されています。
いくら安全な薬と言っても、大量に服用すれば命の危険にもさらされることがありますので、くれぐれも薬は正しい服用方法を守り、薬の飲みすぎにより身体に何らかの異変を感じたら、正直に服用した量を医師や薬剤師に伝えて、早めに適切な治療を行うことが大切です。
睡眠時の明るさと健康との関係
今回は、「睡眠時の明るさと健康との関係」について面白い記事をみつけましたのでお伝えさせていただきます。
奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らの研究グループが、約3,000人の一般住民を対象に、睡眠中の寝室の明るさと健康指標との関連を検討した研究(平城京スタディ)から、明るい寝室で寝ている人には、肥満、脂質異常、全身性炎症、うつ症状、睡眠障害が多いという結果を「Environmental Research」(2019年9月21日掲載)で発表しました。
今回の研究は、奈良県に居住する40歳以上の一般成人3,012人を対象とする大規模な疫学研究であり、解析対象は、照度計の設置位置が適当でないと判断された対象者などを除く2,947人(平均年齢69.3±7.8歳、女性60.6%)で、照度計を用いて2日間にわたり0.2ルクス未満・0.2~1.0ルクス・1.0~4.0ルクス・4.0ルクス以上に分けて調査したものです。
これら4群の健康指標を比較すると、
(1) 睡眠中の寝室照度が明るいほど、BMI、腹囲長、中性脂肪が有意に高値であり、HDL(善玉)コレステロールは有意に低値だった。
(2) 睡眠障害(ピッツバーグ睡眠スコア6点以上)やうつ症状(老年期うつ尺度スコア6点以上)の割合が有意に高かった。
(3) さらに、10ルクスをカットオフ値として二群に分けて比較すると、寝室の明るさが明るい群は白血球数が高値(P=0.041)で全身性炎症の亢進が示唆され、また、うつ症状を有するオッズ比が有意に高かった(P=0.047)ことを報告しています。
研究グループでは、「寝室の明るさと白血球数の関連を示した研究は、本研究が初めて。このメカニズムは、夜間の光曝露による睡眠障害やメラトニン分泌の減少が白血球数を増加させたのではないか」と考察しています。
健康維持のためには、体内時計を正常に保つことが大切と言われていることから、睡眠時は部屋の明るさを暗くしておき、朝日で目覚める習慣をつけることが良いのではないでしょうか。