食事や運動と並んで睡眠は健康を支える要素の一つで、睡眠をしっかり確保できれば免疫力も高まり病気も治りやすいことが知られています。
睡眠と健康との関わりでは、例えば不眠と認知症の関連性などもよく知られています。
不眠に悩まされている方は睡眠薬を服用することもありますが、いわゆる睡眠薬と呼ばれているものの種類は、実に20種類以上もあり、その使い分けは作用時間の長さ、すなわち超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型に分類して考えられていました。
しかし最近では、メラトニン受容体作動性薬、オレキシン受容体拮抗薬といった新しいタイプの睡眠薬が登場してきたことにより、作用時間の違いで使い分けるのではなく作用機序によって使い分けするようになっています。
その理由の一つとして、ほとんどの不眠症患者さんは入眠困難と中途覚醒を併せ持っている方が多く、いま注目されているポリファーマシーという立場からも多剤併用を避ける考え方が広がってきたこともあります。
特にベンゾジアゼピン系という古くから使用されているお薬の継続服用(超短時間作用型、短時間作用型、中間作用型、長時間作用型の組み合わせを含む)は、中高年齢層の患者では認知機能障害、転倒・骨折のリスクが高くなることが安全性の立場から問題視されていますが、現実には睡眠障害を訴える患者さんに、例えば「長短時間作用型と中間作用型を同時に処方する」医師が未だに多く見受けられることも課題と言われています。
睡眠障害がうまくコントロールできていない患者さんは、睡眠外来などを行っている専門の医師に相談することも良いかも知れません。
そのような背景の中で、昨年度に「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が発表されました。
生活習慣病やがんなどの疾患の発症に、「栄養」、「運動」、「喫煙」、「飲酒」が深く関与していますが、その他、「睡眠」も重要な位置づけになることが明確にされ、適切な睡眠により十分な休養を得られている国民を増やすことが目標として掲げられています。
具体的には、1~2歳児は11~14時間、3~5歳児は10~13時間、小学生は9~10時間、中・高生は8~10時間と細かく設定される一方で、成人には6時間以上と大雑把な設定となっています。
これは成人になると睡眠必要時間に大きく個人差が生じることにより、同じ睡眠時間でも影響の度合いも大きく異なることがあるからです。
そこで新たに睡眠ガイドの中で注目されているのが、睡眠時間の長短だけでなく、「睡眠休養感」を指標とする考え方です。
「睡眠休養感」に対するバイオマーカーは今のところありませんので、「睡眠により疲れが取れているかどうか」という感覚的なものになりますが、睡眠時間の確保とともに、最近よく言われている「睡眠の質」の向上が大切ということです。
睡眠は、時間が長ければよいというものではなく、睡眠の質をよくして、目覚めた時に すっきりした感覚が得られることが好ましいということです。
最近では、GABAや乳酸菌飲料、アスパラガス抽出物、PQQなど睡眠の質を向上させると言われているサプリメントも市販されていますが、これらのサプリメントをうまく利用して健康管理に役立てていくことも「睡眠休養感」を得るために良いことかも知れません。
Posts in category くすりの話
睡眠の新たな指標、「睡眠休養感」
日本人の食文化を見直そう! ~緑茶の認知症予防~
日本人は、健康長寿を考えるうえで素晴らしい食文化を持っています。
例えば、お魚のDHA・EPAや、豆類のイソフラボン、海藻類のフコイダン、キノコ類のβグルカンなど、言い始めるとキリがありません。
また、一般に緑茶などに含まれる「ポリフェノール」は、認知症予防に有用であることは既によく知られていますが、今回はその一部について最近の論文からお伝えいたします。
昨年9月に論文が掲載された、英国のクイーンズ大学ベルファスト校が英国の約12万人を対象とした、ベリー類、緑茶、紅茶、赤ワイン、ダークチョコレートなどに含まれるフラボノイド摂取量と認知症リスクの関係について実施した調査でも、フラボノイドが豊富な食品を日常的に摂取することで認知症リスクを大幅に低減することが示唆されています。
国内においても認知症の無い65歳以上の日本人の約9000人を対象とした、金沢大学医薬保健学総合研究科脳神経内科学の柴田修太郎氏らのグループが実施した調査において、緑茶の摂取量が多いほど脳白質病変容積が小さい傾向にあり、緑茶の摂取量が認知症の予防につながる可能性について本年1月に掲載された論文で報告しています。
この研究から著者らは「緑茶にはエピガロカテキンガレートが含まれており、抗酸化作用や血圧低下作用などにより、脳白質病変が縮小した可能性がある」と考察しています。
また、脳白質病変は血管性認知症やアルツハイマー型認知症と密接な関係があることから、緑茶の摂取が認知症予防に役立つ可能性があるとまとめています。
緑茶飲用の文化ある日本人ではありますが、最近では緑茶以外のお茶を飲用する方が増えていることや、肉類など欧米文化の食事が主流となりつつある印象ではありますが、改めて日本人の食文化を、健康長寿の立場から見直していくことも大切かも知れません。
どうしても日常生活の中で偏りが生じる場合は、適切なサプリメントなどで補うという方法も良いかも知れません。
ビタミンDの新たな可能性~サルコペニアに対する有用性~
ビタミンDは、骨代謝にかかわるビタミンとしてよく知られていますが、日光を浴びることによって体内で合成することができることや、高齢者の方には医薬品として処方されることが多いビタミンであることから、あまり注目されていませんでした。
そんなビタミンDの有用性について今までにも「ビタミンDサプリメントの摂取と癌死亡率低下の可能性」や、「パーキンソン病やアルツハイマー型認知症の予防改善の可能性」、「免疫力を高める作用」などの紹介をしてまいりました。
今回は、血清ビタミンD濃度が低い高齢者は骨格質量指数(SMI)が低く、握力が低下しサルコペニアのリスクが高まる可能性についてご紹介させて頂きます。
この研究結果は、大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学の赤坂憲氏らのグループにより、2024年8月に「Geriatrics & Gerontology International」に掲載されています。
サルコペニアは、筋肉の量や筋力が低下した状態で、移動困難や転倒・骨折、寝たきりのリスクが高まる他、男女ともに死亡リスクは2倍以上高まることが知られ、治療薬がないことから、筋肉に適度な負荷をかける運動やたんぱく質の摂取を中心とする食事療法がその予防・改善策として重要と考えられています。
赤坂氏らは、東京都と兵庫県の地域住民を対象とした高齢者長期縦断研究のデータを用いてサンプル数が十分な70歳代と90歳代の横断的解析を行いました。
その結果、この研究では横断的解析であり因果関係は不明なことや日光暴露時間、栄養素摂取量が不明な点が課題であることを述べたうえで、血清ビタミンDレベルは歩行速度には影響しないものの、骨格質量指数(SMI)や握力との関係を明らかにしています。
さらなる研究が必要ではありますが、近年では骨粗しょう症治療薬として処方されているビタミンDにサルコペニアに対する保護的作用もある可能性が報告されていることを考慮すると、血清ビタミンDレベルを維持することは骨格筋量の維持に寄与し、サルコペニア予防につながる可能性を示唆した研究結果であると考えられます。
たかがビタミン、されどビタミン。
またひとつビタミンDの新たな有用性が加えられましたが、その他ビタミンC、ビタミンB群などにも様々な新たな有用性が知られていますので、特にご高齢の方は、積極的に総合ビタミンの摂取を心がけることは、健康長寿につながる一つの手段かも知れません。
乳酸菌は「株」が重要!
最近の研究で、「脳-腸相関」が注目され、腸内細菌叢と全身性疾患との関係も明らかにされつつあります。
例えば、マスコミでも抗アレルギーとして効果が期待できるヨーグルトなどが紹介されていることもありますが、パッケージを確認すると乳酸菌の名称の後に「〇〇株」と明記されています。これは同じ乳酸菌であっても株によって効果が異なることを意味しています。
さて、2024年11月号にて口腔内ケアにおける乳酸菌の有用性についてお伝えさせて頂きました。また、徳島大学病院の医科歯科連携を例にとり、腸内細菌叢の改善と糖尿病改善との関係についても一部紹介させて頂きました。
今回は、乳酸菌は「株」が重要であることをご理解いただく一例として、予防医学分野の先進国であるスウェーデンにて医療用途サプリメントとして研究が進んでいる「L.ロイテリ菌」についてご紹介させて頂きます。
スウェーデンに本社を置く世界トップクラスのバイオテクノロジー企業のBioGaia社では、「L.ロイテリ菌」の様々な菌株について研究を継続して行っています。
まずは「L.ロイテリ菌ATCC PTA 5289株(口腔由来)」については、すでに日本国内でもテレビで紹介され話題になり、一部の歯科医師が推奨されているサプリメントがあります。
臨床報告を含む期待される主な作用として①ミュータンス菌や歯周病菌の抑制によるむし歯・歯周病予防 ②歯肉炎の緩和 ③口臭改善 ④口腔内べたつき緩和などが報告されています。
チュアブルタイプですっきりミント味になっていますので手軽に使用できます。
次に主に医師向けとなっている「L.ロイテリ菌ATCC PTA 6475株」についてですが、
臨床報告を含む期待される主な作用として、①炎症性サイトカインTNF‐αの産生抑制や腸内細菌叢の改善による慢性炎症の改善作用 ②骨密度低下抑制作用 ③体重増加抑制作用 ④テストステロン分泌増加(調整)作用⑤便秘改善作用などの他、ピロリ菌抑制作用や抗アレルギー作用など数多くの有用性が知られています。
その他、「L.ロイテリ菌DSM 17938株(母乳由来)」では、赤ちゃんの夜泣き改善作用や便秘改善作用、感染予防作用などの報告があります。
最近ではきちんと研究されていない菌株の「L.ロイテリ菌」を配合するサプリメントも販売されていますが、このように同じ「L.ロイテリ菌」と言ってもその「菌株」によって作用が異なることがあり、実験や臨床での検証の有無も大切なところと考えられますので、先生方が飲用、または推奨される場合は慎重にご検討ください。
電子処方箋の発行が加速!
最近、「電子処方箋」と言葉を耳にする機会が増えてきました。皆さんはご存知でしょうか?
処方箋と言えば、患者さんが医療機関を受診したときにお薬が出される場合に、薬局に持っていく「紙の処方箋」を思い浮かべる方が多いと思いますが、この紙の処方箋が電子化されることになります。
えっ!どういうこと?
今まで医療機関から発行されていた紙の処方箋の代わりに、番号が記載された用紙が手渡され、それを調剤薬局に持参します。調剤薬局ではその番号をもとに、セキュリティー性の高い場所の中で情報を確認し、その情報をもとに調剤することになります。
これをすることでどんなメリットがあるかと言えば、その患者さんがどの医療機関から何のお薬が処方されているかを正確に把握することができるようになります。
今までは「お薬手帳」や「かかりつけ薬局の薬歴管理」などでお薬の内容を確認していましたが、患者さんによってはお薬手帳を医療機関ごとに持参していたり、そもそも持参しなかったりするなどにより正確に使用薬品を把握できないこともありました。
特に睡眠薬などの特殊なお薬については、ご自身がその薬を処方されていることを申し出さない限りは、かかりつけ医療機関や、かかりつけ薬局であってもわからないこともあり、重複投薬される可能性もありました。
ところが電子処方箋にすることにより、どの医療機関や調剤薬局でもその方の情報が一括して確認できるようになるため、お薬の重複投薬や相互作用などを確認できるため、患者さんの健康管理や医療費の抑制にもつながります。
一方、患者さんにとってみれば、今までいろんな医療機関に受診して薬を手元にためておくことができたものができなくなりますので、多めに薬を手元にもっておくこともできなくなります。また、様々な犯罪にも使用されるお薬の横流しなどを食い止めることにも役立ちます。
これからは健康保険証も発行されなくなり、すべてマイナンバーカードに集約されてきますので、もう「情報漏洩が怖いのでマイナンバーカードを持つのが怖い」などと言っている時代ではなくなってきたようです。
医療機関や調剤薬局で「マイナンバーカードはお持ちですか?」と尋ねられることがあるかも知れませんが、「なぜ、そんなことを聞くのか?」と声を荒げるのではなく、そのような時代になっていることを理解して、持っている場合は素直に機器に通すようにしたいものです。
これからの世の中は、なんでも「電子化」されるようになってきますので、時代に乗り遅れないようについていくしかないと感じる今日この頃です。
ますます注目される「口腔内ケア」
令和4年4月号の「薬のはなし」でも“歯周病と腸内細菌との関係”についてお伝えさせていただきましたが、さらに詳細が明らかにされつつあり、歯科医師の中でも注目されている情報として改めてご紹介させていただきます。
ご存知のとおり、むし歯と歯周病は口腔内の2大疾患で、どちらも口の中の歯垢(プラーク)に含まれる細菌によって引き起こされ、歯を失う主な原因となっています。
最近では、ブラッシングや食事指導、8020運動などの取り組みが進み、子供のむし歯は急激に減少し、8020達成者(80歳で20本の自分の歯を残す)は、令和4年の厚生労働省による調査結果では半数を超えているとのことです。
一方で歯周病患者数は減っていないことが課題となっています。
そのような背景の中で、歯周病の原因となる口腔内細菌が毛細血管から全身の組織に到達し炎症を起こすことや、唾液に含まれる細菌が腸内細菌叢を乱して炎症を起こすことなどが原因で、口腔内疾患だけでなく、肥満やメタボリックシンドローム、糖尿病、心臓血管疾患、動脈硬化症、腎臓病、誤嚥性肺炎、関節リウマチ、アルツハイマー型認知症、がんなど、様々な全身性の疾患とも深いかかわりがあることがわかってきました。
面白いことに歯科で歯周病の治療をしていると糖尿病が改善したという例もあり、食事療法や運動療法で血糖値が安定しない患者さんは医科歯科連携治療を行うことも増えています。
例えば、徳島大学病院では、医科歯科連携で糖尿病患者さんが歯周病の治療を行ったところ、血糖値が改善した例も多数あるとの記事を目にしたことがあります。
歯周病予防の基本はブラッシングですが、それだけでは十分に予防することはできません。そこで新たな救世主として登場したのが、ヒト由来乳酸菌「ロイテリ菌」です。
ロイテリ菌は、スウェーデンのカロリンスカ医科大学の研究成果をもとに多くの臨床現場で使用され、今では世界で100の国と地域での使用実績があります。
国内においても主に歯科医師を中心に患者さんへ推奨されている乳酸菌です。
血糖自己測定器を使用されている方に朗報!
糖尿病患者さんの中で、血糖値を自己測定されている方は、少なからず穿刺による痛みを伴うほか、医療廃棄物としての処理や測定に伴う費用など負担が大きいものでした。
現在、それらのデメリットを軽減するため、非侵襲性血糖センサーの開発が進んでおり、手のひらサイズまで小型に成功し、実用化が間近になっているようです。
開発に取り組んでいるのは大阪市にあるベンチャー企業で、中赤外線レーザーを指先に照射して毛細血管中の血糖値を測定する仕組みで、センサー部分に指を5秒間あてるだけで血糖値が測定できるとのことです。
健常者を対象とした試験では、血糖自己測定機器による値と相関性が高く、国際標準化機構(ISO)が求める計測精度を満たしており、現在は量産試作を行っている段階だと言います。
今までも非侵襲性血糖測定器の開発は進められていましたが、中赤外線レーザーを使用することにより、血中成分と糖の区別がつきにくいという課題が克服され、一気に開発が進んでいきました。
使用に伴う費用については、現在血糖自己測定器を使用している患者の自己負担額と同程度ではありますが、今後のコストダウンに向けても研究を重ねています。
専用アプリをインストールしたスマートフォンの画面にも表示できるようになり、医師が瞬時にデータを確認できるようになることや、この中赤外線レーザーの波長を変更すれば、理論的に血中中性脂肪値やコレステロール値、アルコール濃度測定などに応用が可能であることから、手軽に使用できてコストが下がれば、さらに健康管理に役立つ機器へと期待が高まってまいります。
今後、臨床試験を積み重ね国の承認を受けて販売を目指しているということですが、1日も早い実用化が待たれます。
いわゆる「睡眠薬」のお話
睡眠薬と聞けば、依存性が高いお薬で使用を避けたいと思われる方も多いかも知れませんが、それは古くから使用されている「ベンゾジアゼピン系」、または「非ベンゾジアゼピン系」に分類されている一般的な睡眠薬をイメージされるからだと思います。
実は睡眠薬には、そのメカニズムの違いから「①脳機能を低下させるお薬」と「②自然な眠気を強くするお薬」の二つに分類することができます。
脳機能を低下させるお薬は、少し乱暴な言い方になりますが、激しい運動をしたときや、風邪をひいて免疫力が低下した時など、「体が疲れきって眠くなる」状態のイメージです。
覚醒に働いている神経活動を抑えて、要は強制的に眠らせてしまうお薬です。
これだけ聞くと怖いイメージがあるかも知れませんが、最近のお薬は昔のお薬と違って、依存性も低く、安全な薬ですので安心してご使用していただいて大丈夫です。
脳機能を低下させる睡眠薬に対して、例えばロゼレム(一般名;ラメルテオン)という、体内時計のリズムを整えている「メラトニン」というホルモンに働きかけ、睡眠を促すお薬があります。
体内時計のお話もこの「くすりの話」で何度かさせて頂いていますが、夜更かしや寝る前のパソコン、ゲーム、明るい部屋での睡眠などで体内時計にずれが生じて質の良い睡眠が十分に確保できないことが多くなる傾向が問題になっています。
ロゼレム(一般名;ラメルテオン)は、その体内時計のリズムをリセットする方向に働きかけ、自然な睡眠を促すお薬ですので依存性などの心配もありません。
ところで、食事をした後に眠気を催すことはよく知られていますが、それはどうしてかご存知でしょうか。食事をすることによって血糖値が上昇するからと答える方が多いと思いますが、血糖値が上昇することによりオレキシンという物質の活動が低下することによって眠くなるのです。
オレキシンは食欲中枢から発見された物質ですが、動物は空腹になれば「餌」を探す行動をとるため、常に敵と隣り合わせで意識を覚醒しておくことが必要で、そのためにオレキシン作動性ニューロンという神経細胞が活発に働くことで覚醒しています。
一方、満腹になって血糖値が上昇すれば、オレキシンの活動が低下し眠気を催してくるのですが、その作用を利用してデエビゴ(一般名;レンボレキサント)というお薬も発売されています。
デエビゴは、オレキシン受容体拮抗薬と呼ばれ、オレキシンの働きをブロックすることで自然な眠気を誘導するお薬です。
ロゼレムもデエビゴも自然な眠気を誘導するタイプの新しいお薬ですので、さすがに入眠障害に対しては効果が期待しづらいと言われていますが、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害などには有効です。
ロゼレムとデエビゴは、作用する場所が異なりますので、場合によっては併用も可能です。
自然な眠気を強くするタイプのお薬は、体内時計のずれが原因と考えられる睡眠障害が増えている現在社会において、このタイプのお薬の開発が進み、今後はこのタイプの睡眠薬が主流になってくる時代がやってくるかも知れません。
ビタミンDのがん免疫を促進する意外なメカニズム
以前のくすりの話で、「脳-腸相関」についての研究が本格的にすすみ始め腸内細菌のかかわりについても少しずつ明らかになりつつあることをお伝えしました。
今月号は、それにも関連した話題にはなりますが、「ビタミンDのがん免疫を促進する意外なメカニズム」についてお伝えします。
ビタミンDは、骨代謝にかかわるビタミンとしてよく知られていますが、日光を浴びることによって体内で合成することもできるビタミンであることから、あまり注目されていませんでした。
しかし、まだまだエビデンスに乏しいものもありますが、パーキンソン病やアルツハイマー型認知症の予防改善の可能性の他、免疫力を高める作用が知られています。
免疫力を高める作用については、核内受容体に結合して様々な分子の転写を促進することによるものと考えられていましたが、腸内上皮細胞に作用しBacterioides fragilisという細菌が腸内で増える結果、がん免疫が増強されることが科学雑誌「Science」(4月26日号)で報告されました。
ビタミンDで上皮が刺激されることで起こる腸内細菌叢の変化を調べたところ、Bacterioides fragilis のみが増加していることがわかり、Bacterioides fragilisを正常マウスに移植するとがん抑制が誘導され、この効果はビタミンD欠損食で消失することを確認しています。
人間のデータベースからビタミンD受容体の感受性が高い患者さんはがんの生存率が高いことや、ビタミンD濃度の低い患者さんはがん発生率が高いなどが知られていますが、Bacterioides fragilisの関与についてはまだ明らかにされていません。
最近、東京慈恵会医科大学の研究で、ビタミンDサプリメントの摂取と癌死亡率低下の可能性について発表されていまます。
統合医療を実践する医師の中でも、免疫力を高めることが期待できる健康食品とともに、ビタミンDなどを含む総合ビタミンの摂取を推奨しているグループもあります。
ビタミンCの抗酸化作用などを含めていままでにもよく知られている作用に加えて、いままで知られていなかった様々な作用が発見されています。
例えば、ビタミンB2は、ミトコンドリア活性作用が知られるようになりました。
ミトコンドリア活性作用で期待できる作用として、認知症やパーキンソン病の予防・改善作用、がん細胞のアポトーシス(自滅)誘導作用などの他、実に様々な作用が期待できます。
がん補完代替医療を実践されている方は、コスト的にも負担が少ないことから、可能であれば総合ビタミンサプリメント、または総合ビタミン配合の医薬部外品の摂取も併せて考慮しても良いかも知れません。
「腸内細菌と病気の予防と治療」の関係~今後の研究の進展に期待!~
脳と腸は常に情報を交換しあってお互い影響を及ぼすことが徐々に解明され、やっと最近になって「脳-腸相関」についての研究が本格的にすすみ始めています。
その中で、腸内細菌のかかわりについても少しずつ明らかになりつつあり、どの腸内細菌がどのような疾患にかかわっているかというところまでわかりはじめてまいりました。
しかし、まだまだわかっていないことの方が多いというのが現況です。
乳酸菌が免疫力を高める作用が期待できることはすでによく知られていますが、それ以外にも、睡眠や抗アレルギー作用に乳酸菌入り飲料やヨーグルトが発売されていることからもわかるように腸内細菌は様々な疾患とかかわりをもっています。
そもそも脳腸相関における腸内細菌のかかわりが世界でも注目されるようになったのは、腸内細菌を持たない無菌マウスを用いた研究報告が発表されてからです。
無菌マウスは腸内細菌を持つ通常マウスに比べ、ストレスに対して過敏であること、脳の神経系を成長させるための因子が少ないことなどが分かり、無菌マウスに通常の腸内細菌を移植すると多動や不安行動が正常化するという報告などから、腸内細菌はストレスの感じ方や脳の神経系の発達・成長、そして行動に関わる存在であることが示唆されています。
さらに最近の研究で、がん免疫治療薬(オプジーボなど)と腸内細菌とのかかわりについても知られてきました。
がん免疫療法は、手術・放射線・抗がん剤治療に続く「第4のがん治療法」と言われており、抗がん剤や分子標的薬などと比べても、がん免疫治療薬の効果が出て3年間生きられると、5年、10年と再発が抑えられる可能性が高いと言われています。
その中で、腸内細菌叢の環境を整えることでがん免疫治療薬の効果を高める可能性について昭和大学医学部で研究が進められています。
昭和大学医学部で研究されるようになったきっかけは、「腸内細菌の違いによって、がん免疫治療薬の効果が左右される」という、マウスを使った研究報告でした。
同じ種類と同じ週齢のマウスであるのに、飼育先の会社によってがん免疫治療薬の効果が違うことに気づいた海外の研究チームがその原因を探ったところ、餌などの飼育環境の違いによって治療薬の効果を左右していることや、無菌マウスにがん免疫治療薬を与えても治療効果が現れないことがわかりました。
これをきかっけにヒトでも検証を重ねた結果、がん免疫治療薬の治療効果のなかった患者の腸内細菌に比べて、治療効果のあった患者の腸内細菌は多様性に富んでいることや、治療前に抗生物質を服用している方はがん免疫治療薬の効果が現れにくいことなどがわかりました。
さらに、昭和大学の研究チームデータ分析から、オプジーボの効果があった患者さんの腸内にビフィズス菌が多いことや、腸内細菌の多様性があったこともわかっています。
まだまだ腸内細菌と病気についての解明は研究途上にありますが、今後ますます解明されていくことを期待しています。
腸内細菌と病気についての詳細がまだ明らかになっていない現時点では、日常的に乳酸菌やビフィズス菌入りの飲料やヨーグルトの積極的な摂取、およびオリゴ糖や食物繊維の積極的な摂取などの他、例えばエンテロコッカス・フェカリス菌含有サプリメントの積極的な摂取なども補完代替医療の立場から有用かも知れません。