今回の薬のはなしは、「唾液」の話をさせていただきます。
唾液、すなわち「つば」の事ですが、小学校の理科の授業では、「アミラーゼという酵素がデンプンを分解する働きがあるため、よく噛んで食事をすることが大切です」と教えられた記憶があります。
また、小さいころには、ちょっとしたケガのときには「つばでもつけておいたら治る」と言われたことがありますが、実は唾液には細胞を活性化させる「グロースファクター(成長因子)」が含まれており、粘膜や皮膚の表層細胞を活性化させて傷を治しやすくする作用がありますので、ちょっとしたケガのときに「つばでもつけておいたら治る」は、単なる気休めだけのことではなく、的外れなことではないという側面もあります。
最近、「唾液力」という言葉も出てきたくらいに「唾液」について見直されてきています。
そこで、知っていそうで知らない唾液についての話題を今回のテーマに選びました。
最近の研究によって、唾液の質と量が感染症や生活習慣病を予防と深くかかわっていることがわかっており、神奈川歯科大学の槻木教授によれば、唾液中のわずか1%の中に健康に役立つ成分が100種類以上も含まれており、中でも免疫グロブリンA(IgA)という成分が感染症から身体を守ってくれているのだと言います。
即ち、唾液はインフルエンザや細菌の感染から身体を守ってくれているのです。
さらに、最近の研究では、同じ唾液でも唾液の質も注目されており、インフルエンザに感染しやすい人と感染しにくい人を比べると、感染しにくい人の唾液には「結合型シアル酸」という成分が多いことがわかってきました。
さらには、唾液は、認知症やうつ病の予防にも役立つことや、HSP-70(ヒートショックプロテイン-70)という、抗ストレス作用を有するタンパク質によって上気道感染抑制にも役立っている可能性が報告されています。
ところが、高齢になるにつれて唾液の分泌量がどんどん減少し、うまく食事を呑み込めなくなることで誤嚥性肺炎の原因になることも指摘されています。
そこで日常生活の中で唾液の量の低下を防ぐための工夫をしていくことが大切です。
唾液の量の低下を防ぐ工夫として、よく噛んでゆっくり食事することや、ビタミンCやポリフェノール、CoQ10などの抗酸化食品の摂取が良いと言われています。
さらに、唾液の量を増やすだけでなく唾液に含まれるIgAの量も増やすことも大切です。
「腸-脳相関」という言葉が広く知られるようになっていますが、それに加えて「腸-唾液腺相関」という言葉も知られるようになってきましたが、腸内環境を整えることによって唾液中のIgAを増やせることがわかり、例えば食物繊維の豊富な食べ物を摂取することもおすすめです。
食物繊維の摂取により腸管を刺激して、唾液腺にIgAの分泌シグナルが送られて、唾液中にIgAを増やしていくと言われています。
また、食物繊維と発酵食品を同時に摂取することで、腸内で乳酸菌が食物繊維をエサとして増えていくことで、腸内環境を整えて唾液力を高めると言われています。
日常生活の中で、食事の工夫をはじめとして、様々な「唾液力」を高める工夫を重ねながら健康を維持してまいりましょう。