睡眠薬と聞けば、依存性が高いお薬で使用を避けたいと思われる方も多いかも知れませんが、それは古くから使用されている「ベンゾジアゼピン系」、または「非ベンゾジアゼピン系」に分類されている一般的な睡眠薬をイメージされるからだと思います。
実は睡眠薬には、そのメカニズムの違いから「①脳機能を低下させるお薬」と「②自然な眠気を強くするお薬」の二つに分類することができます。
脳機能を低下させるお薬は、少し乱暴な言い方になりますが、激しい運動をしたときや、風邪をひいて免疫力が低下した時など、「体が疲れきって眠くなる」状態のイメージです。
覚醒に働いている神経活動を抑えて、要は強制的に眠らせてしまうお薬です。
これだけ聞くと怖いイメージがあるかも知れませんが、最近のお薬は昔のお薬と違って、依存性も低く、安全な薬ですので安心してご使用していただいて大丈夫です。
脳機能を低下させる睡眠薬に対して、例えばロゼレム(一般名;ラメルテオン)という、体内時計のリズムを整えている「メラトニン」というホルモンに働きかけ、睡眠を促すお薬があります。
体内時計のお話もこの「くすりの話」で何度かさせて頂いていますが、夜更かしや寝る前のパソコン、ゲーム、明るい部屋での睡眠などで体内時計にずれが生じて質の良い睡眠が十分に確保できないことが多くなる傾向が問題になっています。
ロゼレム(一般名;ラメルテオン)は、その体内時計のリズムをリセットする方向に働きかけ、自然な睡眠を促すお薬ですので依存性などの心配もありません。
ところで、食事をした後に眠気を催すことはよく知られていますが、それはどうしてかご存知でしょうか。食事をすることによって血糖値が上昇するからと答える方が多いと思いますが、血糖値が上昇することによりオレキシンという物質の活動が低下することによって眠くなるのです。
オレキシンは食欲中枢から発見された物質ですが、動物は空腹になれば「餌」を探す行動をとるため、常に敵と隣り合わせで意識を覚醒しておくことが必要で、そのためにオレキシン作動性ニューロンという神経細胞が活発に働くことで覚醒しています。
一方、満腹になって血糖値が上昇すれば、オレキシンの活動が低下し眠気を催してくるのですが、その作用を利用してデエビゴ(一般名;レンボレキサント)というお薬も発売されています。
デエビゴは、オレキシン受容体拮抗薬と呼ばれ、オレキシンの働きをブロックすることで自然な眠気を誘導するお薬です。
ロゼレムもデエビゴも自然な眠気を誘導するタイプの新しいお薬ですので、さすがに入眠障害に対しては効果が期待しづらいと言われていますが、中途覚醒や早朝覚醒、熟眠障害などには有効です。
ロゼレムとデエビゴは、作用する場所が異なりますので、場合によっては併用も可能です。
自然な眠気を強くするタイプのお薬は、体内時計のずれが原因と考えられる睡眠障害が増えている現在社会において、このタイプのお薬の開発が進み、今後はこのタイプの睡眠薬が主流になってくる時代がやってくるかも知れません。