妊娠中には、様々な生理的変化が起こることがよく知られています。
その生理的変化の中でも、妊娠時に高血圧を認めた場合を「妊娠高血圧症候群」と定義されていますが、妊娠中における高血圧は、妊婦や胎児への重大なリスクとなり、我が国における調査(1991年~1992年)では、妊娠高血圧症候群が妊産婦死亡原因の約10%を占めると報告しています。
また、2014年に発表されたシステマティックレビュー(55の論文・80万人の妊婦データと米国の一般
集団を比較)によれば、高血圧を合併している妊婦の帝王切開や早産などのリスクが高まることが認められています。
それでは、もし妊娠中に高血圧になったときは、どうすればよいかということですが、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会による「産婦人科診療ガイドライン」によれば、薬物治療においては臨床で使用経験が長く妊娠中の使用について催奇形性が認められていない安全な薬「メチルドパ水和物(商品名;アルドメットなど)」の使用の他、「徐放性ニフェジピン(商品名;アダラートCRなど)」、「ヒドララジン塩酸塩(商品名;アプレゾリン)」、「ラベタロール塩酸塩(商品名;トランデートなど)」を含めた4剤から選択することが推奨されていますので、これらの薬を単独、または併用することになると思われます。
もともと血圧が高くて治療を続けていた方については、降圧剤として比較的よく使用されている「ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤」や、「ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)」をすでに使用している可能性が高いと考えられますが、妊娠中の服用は禁忌(使ってはいけない)となっています。従って、これらの薬を服用している方は、計画妊娠の場合には妊娠する前から、そうでない方は妊娠がわかった時点で早期に使用を中止し、上記の推奨薬剤に切り替えると良いと思われます。
高血圧に限らず、どの疾患に対しても妊娠時やその可能性がある場合の薬物治療は、適切なお薬を使用すべきであることは言うまでもありませんが、その時の状態などによっては、治療を優先するために、妊婦への安全性が十分確立されていないお薬を一時的に使うこともあります。
妊娠時やその可能性がある場合の薬物治療で不安感が募る場合は、率直に主治医に確認をしながら、納得して治療を継続する事が大切です。
くれぐれも自分勝手に薬の服用を中止する事だけは絶対に避けなければなりません。