有効な治療法がないウイルス性のがん「成人T細胞白血病」(ATL)について、渡辺俊樹・東京大教授らのチームが、患者のがん細胞にある「マイクロRNA」(miRNA)と呼ばれる分子を調べ、がんが増殖する仕組みの一端を解明した。新たな治療法の開発につながる成果といい、論文は17日付の米専門誌「キャンサー・セル」に掲載された。
miRNAは細胞内の小さな分子で、細胞内で作られるたんぱく質の種類や量を調整する働きがある。渡辺教授らは、ATL患者40人の血液に含まれるがん細胞のmiRNAを調べ、約1000種類あるmiRNAの一種「miR-31」の量が、健康な人の250分の1以下に減っていることを突き止めた。
患者のがん細胞では、がん細胞増殖を促すたんぱく質が異常に活性化していることが知られている。患者6人のがん細胞にmiR-31を入れたところ、がん細胞が死んだことから、miR-31が減ることでこのたんぱく質が活性化し、がん細胞を増やしていると結論付けた。
ATLは白血病の中でも最も治療が難しいとされ、現状の抗がん剤治療では、発症した人の約半数が1年以内に死亡するとされる。渡辺教授は「miR-31をどのようにがん細胞に送り込むかを研究し、新たな治療法の開発につなげたい」と話す。
2012.1.18 毎日新聞