甲状腺がんは、がんを抑える2種類の遺伝子が機能を失うことによって発症する仕組みを発見したと、佐々木雄彦・秋田大教授(医科学)らのチームが米医学誌に発表した。2種類のうち、がんを抑える「主ブレーキ役」は回復できないが「補助ブレーキ役」の働きは薬剤で回復できることを、共同研究先の米ハーバード大が確認した。治療薬開発に道を開く成果として注目される。
二つの遺伝子は乳がんや前立腺がんで機能が低下する「INPP4B」と、多くのがん細胞で欠損する「PTEN」。チームは、これらの遺伝子を操作したマウスを作り、甲状腺を分析した。
その結果、二つの遺伝子が作るたんぱく質はいずれも、がん発症に関わるとされる脂質を分解する働きがあり、脂質の量が少ない時はPTEN、多い時はINPP4Bと、役割を分担して働いていることが分かった。
佐々木教授らは、甲状腺がんでは、がんを初期段階で抑える主ブレーキ役のPTENがまず機能を失い、補助ブレーキ役のINPP4Bが代わって脂質の分解を担うものの、やがて機能を失い発症に至ると結論づけた。ハーバード大のチームは薬剤を使い、細胞レベルでINPP4Bの機能回復に成功した。
佐々木教授は「甲状腺がんがゆっくり進行する理由はよく分かっていなかったが、一つではなく二つの遺伝子の異常が関わるためだと理解できる。薬で制御できる可能性はあると思う」と話した。
(2015年4月18日 毎日新聞)