腸管は、単に栄養分を吸収するだけではなく、約1,000兆個ともいわれる細菌が住みつき、高度な免疫システムが備わっていることがわかっています。
また腸管には、なんと体全体の50%以上の免疫細胞が集まっているため、生体最大の免疫組織とも言われています。
腸管における生体防御機構は、物理的なバリアという役割だけではなく、腸内細菌のバランスによるバリアや常在マクロファージおよび樹状細胞などから構成される自然免疫系バリアなど多元的バリアによって恒常性が維持されています。
このバリアの破綻が、例えばアトピー性皮膚炎などのアレルギー症状やがんなどの生活習慣病の発症と大きな関わりがあることがわかってきました。従って、腸内細菌叢のバランスを保って、腸管内バリアの破綻が無いようにすることが健康を維持する上で大切です。
実際に無菌マウスでは、免疫機能が劣っていることがわかっています。つまり、腸内細菌叢が腸管免疫機能を鍛えていると言えるのです。
それでは、腸内細菌叢のバランスによって保たれている腸管免疫とは、どのようなシステムになっているのでしょうか?
腸管特有のリンパ組織のM細胞とパイエル板は、腸管免疫誘導組織として特に重要な役割を果たしていることがわかっています。通常、リンパ組織は血液やリンパ液中の抗原に対して免疫応答を誘導しますが、腸管ではパイエル板が抗原となる病原性微生物を自ら取り込んで免疫応答を誘導します。これは、体内に病原性微生物が侵入してきたときに早急に対応できるようにするためのシステムが発達したためと考えられています。
病原性微生物を取り込み、パイエル板に受け渡す役割を担っているのがM細胞です。
M細胞の表面には様々な受容体があり、その受容体を使って抗原を取り込んでいくことにより免疫応答を活性化します。
ところで、最近の研究によって、腸内細菌と免疫の関係も徐々に明らかになってきましたが、将来的には、ヘリコバクター・ピロリ菌と胃癌発症の関係のように、疾患にかかわる腸内細菌が同定され、その腸内細菌に直接アプローチする治療方法がもしかしたら確立されるときがやってくるかも知れません。
腸管免疫と腸内細菌の関係については、まだまだ未知の分野ではありますが、今後、ますますこの分野の研究が進展していくことが期待されます。