三重大大学院医学系研究科の田中利男教授(薬理学)らの研究グループは、がん細胞に栄養を補給する血管を作り出す遺伝子を新たに発見したと発表した。この遺伝子の働きを阻害すれば、がん細胞の増殖を抑えられる可能性が高く、新たな抗がん剤の開発につながると期待されている。ヨーロッパ生化学学会学術誌の電子版に、研究成果が掲載された。
がん細胞は自らの急激な成長を維持するため、酸素や栄養分を補給する血管を新たに作る「血管新生」という性質がある。血管新生を促す遺伝子はこれまでも発見され、その働きを抑える治療薬が開発されているが、患者によっては効果がなく、副作用もあることが課題となっていた。
研究では、人間と遺伝子の配列が似ている熱帯魚「ゼブラフィッシュ」に、前立腺がんの細胞を移植した。その結果、遺伝子「ZMYND8」が血管新生を引き起こす一方、試薬でその働きを妨げると、血管新生が抑えられることが判明した。全身への副作用も少なかった。
人のヘソの緒の静脈を使った実験でも、この遺伝子が血管新生を促すことが確認され、臨床応用につながると期待されている。
田中教授は「ZMYND8を標的にした抗がん剤が開発されれば、従来の治療薬が効かなかった患者にとって、新たな選択肢になる」としている。
奈良県立医科大の吉栖正典教授(薬理学)の話「これまでなかなか見つからなかった遺伝子をゼブラフィッシュを使った独自手法で発見したのは画期的。臨床応用にはまだステップが必要だが、がん治療にとって将来性のある成果だ」
(2014年9月24日 読売新聞)