年齢を重ねるに伴って、複数の医療機関を受診する機会も増えてきます。
いろいろな症状を訴えて「薬」を処方していただくことになりますが、そこで注意しなければならないことは、同じ作用の薬の重複服用です。しかし、最近では医薬分業が進んでいますので、同種同効薬の処方については、薬局側で薬剤師が比較的容易に食い止めることが可能になってきました。
一方、厄介なのは、同種同効薬の重複ではなく、それぞれの訴えに対して別々の薬効の薬が複数の医療機関から処方されている場合です。こうなると薬剤師側では薬を整理することは出来ませんので、そのまま投薬することになってしまいます。
しかし、高齢者の方が多剤処方されている(たくさんの薬を服用している)ことにより、様々な問題が生じていることもあります。
例えば、「処方のカスケード」という問題があります。即ち、いくつかのお薬を服用している中で、咳が出るようになってきたということで咳止めの薬を追加し、便秘がひどくなってきたということで便秘薬を処方するという具合に「足し算処方」されていくことです。何が問題かと言えば、はじめの咳止めの薬の追加については、例えばACE阻害剤という高血圧症の方に使用する薬を長期に服用していると咳症状がでる場合があります。
もしかすると咳止めの薬を追加しなくても、高血圧症の薬を変更すれば解決できるかもしれません。次に便秘薬の追加についてですが、ある種の咳止めの薬の副作用として「便秘」があります。この場合も咳止めの種類を変えれば便秘薬の処方は必要なかったかも知れません。このように薬の作用に対して薬を処方することが繰り返されることを「処方のカスケード」と呼んでいますが、いつのまにかたくさんの薬を飲んでいることになっていることにつながります。
もちろん薬剤師も薬の副作用についてチェックしていますが、医師が副作用かも知れない症状について別の薬を処方してしまえば、薬の副作用を見つけ出すことは容易ではありません。
睡眠導入剤も必要以上に服用していると「転倒」の危険性も増し、最悪の場合は転倒によって「骨折」し、寝たきりになってしまうことも考えられます。
先日も身近な事例として、次のような経験をしました。
心療内科を受診したある高齢の患者さんですが、気持ちを落ち着かせる薬が処方されていました。この薬は時には胃薬として使用されることもあり、きついお薬ではないという説明を受けていました。
しばらく服用している中で、家族の方が「手が震えるようになってきた」ことをかかりつけの医師に相談したところ、パーキンソン病の可能性があるということで、状況を見ながら薬を飲んだほうが良いということだったそうです。その後、たまたま別の医師に受診したときに言われたことは、薬剤性パーキンソン病(薬の副作用でパーキンソン病様症状が出ている)の可能性もあるので、その薬を中止するように言われ、しばらく中止すると手の震えが治ったということです。即ち、薬の副作用により症状が出ていただけだったのです。
以上の例でもわかるように、安易に薬を服用し続けることは好ましくありません。
この度、日本老年医学会でも「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」が見直されることになりました。
このガイドラインによれば、高齢者が中止すべき薬のリストも掲載されています。
自分にとって本当に必要な薬は何かをよく考えて、使用する薬は必要最小限の使用にとどめることが大切かも知れません。
服用する薬の種類は、理想は数種類以内にとどめたいところですが、もし今服用している薬が10種類を超えているようなら医師に相談しながら減薬できるものは減薬するのも良いかも知れません。但し、患者さんにとって必要な薬は必要ですので、勝手に薬を中止するのはよくありませんのでご注意ください。