発見が難しく治療も困難な膵臓(すいぞう)がんについて早期段階で見つけることができる簡易検査キットを、国立がん研究センターのグループが開発した。血液中の特定のたんぱく質の変化を調べることで、簡単に確認できるという。今月中から研究用として医療現場で使用し3年以内の実用化をめざす。
同センター創薬臨床研究分野の本田一文・ユニット長らは、血液中の特定のたんぱく質が減っているかを調べる研究開発を2005年からスタート。人間ドックなどで行われている既存の血液検査に比べ、精度の高い方法を開発した。
ただ、この測定法は高価な機器を必要とし、医療現場への導入は難しい。そのため、試料の抗原抗体反応で濃度を簡単に測定できる検査キット(研究用試薬)を作製。今回、米国の国立がん研究所(NCI)との共同研究で精度を確認した。
米国の早期(ステージ1、2期)の膵臓がん患者98人と健康である61人の血中のたんぱく質を比較。善玉コレステロールと関係のあるたんぱく質「アポリポプロテインA2」の5種類のうち、アミノ酸の数が変化した1種類の量が、健康な人の6割前後に減っていることを確かめた。
精度はこれまでの検査結果を上回った。NCIは「信頼性の高い血液バイオマーカーになりうる可能性がある」と評価している。また、国内7病院の協力を得て行った研究では、膵臓がんに進行する可能性がある慢性膵炎(すいえん)などリスクの高い患者でも反応を示した。
今月中にも兵庫県内の検診センターで、同意した患者に使う臨床研究に入る。本田さんは「既存の検査との組み合わせでより発見ができる可能性がある」としており、「3年以内に(実用化となる)体外診断薬の承認を目指したい」と話す。論文は9日の英科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された。
(2015年11月11日 朝日新聞)