悪性度の高い前立腺がんの遺伝子の働き方を薬で操作し、抗がん剤を効きやすくすることに、慶応大と産業技術総合研究所などの研究チームが試験管内の実験で成功した。日本癌(がん)学会機関誌に論文を発表した。慶大は、抗がん剤が効かない悪性がん患者への応用を検討している。
チームの永松剛(ごう)・慶大助教(発生・分化生物学)らは、悪性の前立腺がん細胞で特定の遺伝子「OCT4」が活発に働いていることに注目。OCT4は人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作製にも使われ、他の多くの遺伝子の働きを変化させる。遺伝子の働き方の変化は、がんの悪性度を高めると考えられる。
チームは、ヒトの悪性前立腺がん細胞で、OCT4によって働いたり休んだりする遺伝子を調べ、それらの遺伝子の働きを抑える薬を、既存薬のデータベースから探した。
その結果、C型肝炎治療薬「リバビリン」が候補に挙がった。悪性がん細胞にリバビリンを加えると、一般的ながん細胞と同程度に抗がん剤が効くようになった。
リバビリンがどのように作用しているかは不明だが、チームの須田年生(としお)・慶大教授は「遺伝子への影響を調べて既存薬の中から役立つ薬を探す方法は、がんの新薬開発に役立つだろう」と話している。
(2013年8月16日 毎日新聞)