暑いこの時季になると、熱中症での救急搬送については毎日のように報道されるようになってきますが、熱中症予防には特に気をつけたいものです。
なんと言っても熱中症は、致死的疾患で、特に注意しなければならない高齢者は体温の調節がうまくできなかったり、脱水予防のために水分補給をすすめても「のどが渇いていること」がわからない場合もあり、意外にも屋内で熱中症によって倒れるケースも少なくありません。
熱中症を発症してしまった場合は、身体を冷やすことや点滴治療が最優先ですが、予防対策としては、脱水予防効果が期待できる「五苓散(ごれいさん)」という漢方薬も有効と考えられています。
「五苓散」は、脱水予防だけではなく、熱中症から起こる「頭痛」などに対しても効果を発揮すると考えられています。
また、熱中症からの回復期や暑熱障害(いわゆる暑気あたり)による全身倦怠感や食欲の低下、下痢などには「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」が良いと言われています。
さらに、暑い夏の夜の睡眠障害も疲労を蓄積してしまう原因にもなりますが、睡眠障害対策には、まずは「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」や「酸棗仁湯(さんそうにんとう)」がお勧めです。
「黄連解毒湯」は、脳が興奮状態にあるときに落ち着かせてくれます。「酸棗仁湯」は、仕事や介護などで疲れて眠れないときに有効です。これらの漢方薬を併用する方法もあります。
これらの漢方薬でも睡眠障害が改善しない場合は、寝る前に「加味帰脾湯(かみきひとう)」を試してみるのも良いかも知れません。加味帰脾湯は、疲れを取り除き、朝の目覚めを良くする効果があると言われています。
このように暑い夏を乗り切るためには、まずは水分・ミネラル成分の補給をしっかり行い、気温が高い日には無理な外出を避け、室内は適度に冷房を入れて、しっかりと睡眠をとることが最も大切なことですが、その上で、熱中症予防対策として漢方薬をうまく取り入れることも良いかも知れません。
暑い夏を乗り切るために、自分にあった方法を、かかりつけ医師と日ごろからよく相談しておくことも大切なことかも知れません。
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夏に活躍する”漢方薬”
片頭痛急性期治療薬 約20年ぶりに新薬が登場!~ 片頭痛で悩まされている患者に朗報 ~
2022年4月、片頭痛急性期治療薬の新薬「ラスミジタン(商品名;レイボー)」が、約20年ぶりに登場しました。
片頭痛の病態は、片側に拍動性の頭痛が繰り返し生じ、頭痛の他にも悪心や嘔吐を伴うことが多く、日常生活のQOLに大きな支障をきたすことがあります。
その原因は、実はまだ解明されていないことも多い中、1980年代に提唱された「三叉神経血管説」が支持されています。
「三叉神経血管説」とは、顔の感覚を脳に伝える神経である「三叉神経」から脳の血管に、CGRPと呼ばれる神経ペプチドなどの神経伝達物質が放出されることにより、脳血管の拡張や血漿タンパク質の漏出が生じて、神経原性炎症を誘発して片頭痛が発生すると言われています。
近年では、片頭痛予防薬としてCGRPに対する抗体医薬品が臨床現場でも使用され、効果を顕していますが、このことからも「三叉神経血管説」が正しい根拠のひとつとなっていると考えられています。
そこで、片頭痛の急性期治療においては、三叉神経からの神経伝達物質の放出抑制、神経原性炎症の抑制、脳血管の収縮などがターゲットとなっており、現在使用されている片頭痛急性期治療薬「トリプタン系薬剤」もセロトニン受容体に作用し、三叉神経からの神経伝達物質の放出を抑制するとともに、脳血管の収縮作用により片頭痛の痛みを軽減しています。
しかし、コントロールされていない高血圧症の患者や脳心血管系の疾患のある患者さんには、安全性の懸念から投与できないことになっている他、トリプタン系薬剤で十分な効果が得られないこともある点が課題でした。
そのような中で、この度なんと約20年ぶりに、血液-脳関門を通過し、トリプタン系薬剤とは異なるセロトニン受容体に作用し、血管収縮作用を有しない比較的安全性の高いお薬「ラスミジタン(商品名;レイボー)」が発売されました。
ラスミジタンは、すでに米国をはじめ世界7か国(2021年12月現在)で承認されている医薬品です。
国内でのラスミジタンの承認により、安全性の面からも一般内科医師も処方しやすい医薬品となることから片頭痛で悩まされている患者さんに朗報となることが期待されます。
新発見! ビタミンB2の新たな機能!
ビタミンB2と言えば、もう100年以上前に発見されている誰もが知っている水溶性ビタミンのひとつです。
そんな身近なビタミンB2ですが、この度、神戸大学バイオシグナル総合研究センターの研究グループにより、ビタミンB2がミトコンドリアを活性化することにより細胞老化を抑制するという新たな機能性について報告されて話題になっています。
なぜ、このことが話題になっているかといえば、細胞老化抑制のメカニズムが、「ミトコンドリアを活性化することによる」というところにあります。
ミトコンドリアと言えば、私たちが生きていくうえで、体内で消費するエネルギーの95%以上を作り出している細胞内小器官であることから、エネルギーの生産工場としてよく知られています。
しかし、ミトコンドリアの機能はそれだけでなく、最近の研究の中でミトコンドリアの新たな機能性について次々と明らかにされてきています。
例えば、ミトコンドリアの機能低下と疾患のかかわりについて、パーキンソン病、認知症、心臓病、糖尿病などの他、がんとの関係なども明らかになっています。
がんとの関わりについて焦点をあてると、健康な人でも毎日数千個のがん細胞が発生しています。
例えばNK細胞などの体内に備わっている免疫機能の働きにより排除されることもありますが、がん細胞の自滅を誘導する「アポトーシス」を促進して排除するというメカニズムもあります。
アポトーシス誘導には様々な因子がかかわっていますが、そのひとつにミトコンドリアが関与しています。
即ち、がん細胞という異常な細胞の細胞分裂を妨げようとするために、ミトコンドリアからチトクロムCという物質を放出してアポトーシスを誘導し、がん細胞を消滅させています。
このようにミトコンドリアの活性化は、私たちの健康と切っても切り離せない関係にありますが、ミトコンドリアは加齢とともに減少していくことがわかっており、老化現象とも深い関りがあるため、健康長寿を保っていくためには、体内のミトコンドリアを増やしていくことや活性化してくことが重要になります。
そんな中で、身近なビタミンB2のミトコンドリア機能低下を改善するメカニズムについて、国際学術雑誌に掲載されたことが専門家の間で注目を集めています。
今後も、ミトコンドリアと健康との関わりについての研究がますます盛んに行われ、新たな知見が次々に得られてくることが期待されます。
「薬物乱用頭痛」って、一体なんだ?
皆様は「薬物乱用頭痛」という言葉を耳にしたことはございますでしょうか?
あまり聞き慣れない言葉かと思いますが、頭痛時に鎮痛剤の使用が過多になると、だんだんと効き目が弱くなり、「薬を服用しても症状が治まりにくい頭痛」のことを「薬物乱用頭痛」と言います。
なんだか嘘のようなホントの話ですが、「薬物乱用頭痛」を抱えている方は、国内ではなんと120~240万人もいると推測されています。
「薬物乱用頭痛」の判断基準は、ひと月のうち半分以上が頭痛に悩まされ、ひと月に10日以上は鎮痛剤を服用し、それが3ヶ月以上継続していれば「薬物乱用頭痛」と考えても良いと言われています。
月に数回程度の鎮痛剤の使用ならば何ら問題ございませんが、月に10日以上の使用となると脳や神経が痛みに敏感になり、少しの刺激でも頭痛がおこりやすくなると考えられています。
そのため、鎮痛剤を服用しても頭痛が治まらず、さらに薬の回数や量が増えてくるという悪循環に陥ってしまいます。
もし、ご自身で「薬物乱用頭痛」ではないかと思いあたることがあれば、市販のくすりの乱用にならないうちに、早めに専門医の受診をお勧めします。
やむを得ず頭痛時に市販薬を選ぶ場合は、まずは単一成分のものを選ぶのが良いと思われます。
最近では複数の鎮痛成分が配合された市販医薬品も多数販売されており、その方が効果は現れやすいと思われがちですが、複数の成分を配合している薬を継続して服用すると、単一成分の服用と比べて「薬物乱用頭痛」をきたしやすいことがわかっているからです。
頭痛薬だけでなく、例えば睡眠導入薬や精神安定剤なども、継続して使用しているとだんだんと依存性が高くなり、その薬がなければ不安になるということも出てきます。
やはり薬は必要な時だけ必要な量を服用するようにして、漠然と薬の服用を継続することは避けたいものですね。
最近では、ポリファーマシー(多剤併用)という言葉も当たり前のように使われるようになってきましたが、いわゆる「薬漬け」から脱出して、臓器に負担をかけない健康維持のためにも服用薬は必要最低限に抑えていきたいものです。
薬は減らせば良いというものでもありません。治療上絶対に必要な薬もあります。
自分勝手に薬を減らすことの無いようにして、薬の種類を減らしたいと思った時は、かかりつけ医師や、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師に気軽にご相談されるのが良いと思います。
お口の健康の護り方~歯科領域のサプリメント「乳酸菌生成エキス」の有用性~
「歯周病」と言えば30歳以上の約70~80%の方がかかっていると言われている誰もが知っている身近な疾患で、口腔内の細菌の感染によって引き起こされ、歯茎の腫れや痛み、歯茎の出血、口臭など様々な症状が現れる炎症性疾患です。
特に、人から口臭を指摘されると気になって歯磨きをしっかりされることも多いようですが、口臭予防は、歯周病予防歯磨きを使ってゴシゴシと歯磨きしたところで、それだけでは根本的な改善には至りません。
それどころか、かえって歯茎に傷をつけるきっかけとなり、歯茎から出血を起こすなどの悪循環に陥ることもあります。
それでは歯周病を予防・改善させるためにはどのようにすればよいのしょうか。
もちろん薬用歯磨きなどを使用して歯磨きすることは大切であることは言うまでもありませんが、歯茎を傷つけないように優しく磨く事やデンタルフロスなどで歯垢を確実に取り除く事、歯茎のマッサージなども忘れてはなりません。
また、それらに加えて、腸内環境を整えることが大切です。
「えっ!腸内細菌?」と思われる方もいるかも知れませんが、口腔内の細菌の数は実に、500~1,000種類もいると言われており、お互いにネットワークをもち、免疫力が低下したときに一気にたたみかけてくると言われています。
厄介なことに、いわゆる歯周病菌は細い血管から侵入して全身に回り、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞、肺炎、骨粗しょう症などの様々な病気を引き起こす原因にもなります。
これらの病気は、一見歯周病菌と関係ないと思われがちですが、実は密接な関係がありますので、体内での歯周病菌の活動を抑える工夫のひとつの方法として、乳酸菌生成エキスの摂取が良いと言われています。
新潟大学大学院で行われたマウスを用いた研究では、マウスに乳酸菌生成エキスを摂取させることにより、腸内のNKT細胞(免疫細胞のひとつ)が小腸で2倍、大腸で4倍も上昇し、確かに腸管免疫を高めている結果が得られています。
歯周病を予防・改善することは、口腔内ケアと腸内環境を整えることの両面からのアプローチが大切と考えられています。
コロナ感染予防対策の落とし穴
新型コロナウイルス感染を原因とするCOVID-19が、世界的大流行(パンデミック)となり、現在の世界全体での死亡者数は560万人を超えています。
新型コロナウイルスは、主に飛沫感染によって感染し、特に高齢者や基礎疾患を有する場合、免疫力が低下した状態で重症化しやすいことがわかっています。
そこで、新型コロナウイルス感染予防対策として、マスク着用や手指消毒、三密(密集・密接・密室)の回避、部屋の換気などが実行されており、これらの対策を継続して徹底することが重要であることは言うまでもございません。
しかしながら、これらの対策をとっていても感染拡大に歯止めがかかっていない現状があります。
今回は「新型コロナウイルス感染予防対策」の落とし穴と軽視しがちな対策についてまとめてみました。
京都府立医科大学大学院医学研究科生体免疫栄養学教授の内藤裕二先生によれば、新型コロナウイルスは、腸にも存在するACE2受容体(細胞膜に存在する特定の物質の受け皿)にくっつくことで感染することがわかっており、感染者に消化器症状を呈する人が多いのはこのためだとおっしゃっています。
そのACE2受容体は、実は「タバコ」を吸うことで増えることがわかっていますので、「タバコ」を吸うことは「私はコロナに感染します」と宣言しているようなものなので、やはり「タバコ」を控えることがコロナ感染予防の立場からも大切だとおっしゃっています。またWHO(世界保健機関)も、喫煙者は重症化しやすいという声明を発表しています。
さらに、案外見落としがちなトイレからの感染に注意を呼びかけています。
上気道PCR検査が陰性になった人でも、便の中にはウイルスが残っていることがわかっており、大便後に水を流すときにウイルスが浮遊して他の方に感染させる可能性があるということです。
そこで、大便を済ませた後には、便器のフタをしてから水を流すという、ちょっとした工夫も大切だということです。
また、アルコール手指消毒では、十分の液量で丁寧に擦り込むことが大切で、少量の液量で擦り込みが十分でない場合は、きちんと消毒できていませんので、予防対策としての落とし穴につながります。
ところで、日本では軽視されがちな補完代替医療ですが、欧米ではすでに44万人を対象にしたビタミンやミネラル、脂肪酸、プロバイオティクス、ハーブなどの予備的な臨床試験が実施されており、多くのエビデンスが蓄積されつつあります。
その中でも今回、特に注目したいのは「ビタミンD」についてです。
もともとビタミンDは、日光に当たると体内で合成されるということから、どちらかといえば軽視されていました。
しかしながら、海外ではがん患者さんへの投与をはじめ、積極的に補完代替医療として推奨されている成分です。
特にコロナ禍においては外出する機会が少なくなり日光にあたる機会が減っていることや、高齢者の重症化リスクが高いことなどを考えると、ビタミンDの摂取は見逃せない対策のひとつと考えられます。
ビタミンDの摂取がコロナ感染リスクや感染による重症化リスク、死亡リスクを低減させることが複数報告されていますので、ビタミンDの摂取はコロナ禍における健康維持に有用かも知れません。
また、免疫力が低下した状態で重症化しやすいことを考えると、免疫力を高めるサプリメントの摂取も見逃せない対策のひとつだと思われます。
気管支喘息に新たなアプローチ~麹菌発酵大豆培養物が気道炎症を抑制!~
気管支喘息は、慢性的な気道炎症により喘鳴や呼吸困難などの症状を発症し、喘息発作時には気管支拡張剤やステロイド剤の使用などで発作を抑えるという対症療法が主流で、根本的な治療方法がまだ確立されていません。
そのような中、大阪市立大学大学院呼吸器内科学の研究グループが、麹菌大豆発酵培養物には喘息による気道炎症を抑制する効果があることを、動物モデルを用いた研究で明らかにし、昨年9月に「Nutrients」オンライン版に論文掲載されました。
大豆の摂取とアレルギー疾患との関連は疫学的に報告されており、大豆成分と抗アレルギー作用は何らかの関係があることはすでに知られています。
また、麹菌大豆発酵培養物(商品名;イムバランス)を用いた研究でも、小児アトピー性皮膚炎をはじめ、アレルギー疾患に対する有用性や抗炎症作用が確認されていました。
この度、大阪市立大学医学部呼吸器内科学の研究グループが、喘息モデルマウスにイムバランスを添加した飼料を与え、気道炎症に及ぼす影響を調査した結果、イムバランス投与群で気管支肺胞洗浄液中の好酸球数が有意に減少し、気管支周辺の炎症や粘液産生が抑制されていることを発見し、さらには好酸球性炎症を誘導する気管支肺胞洗浄液中のTh2サイトカインや血清IgEの発現も有意に抑制していることを確認しました。
これらのことより、イムバランスは気管支喘息の患者さんの治療の補助として有用であると考えられます。
この研究に携わった大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器内科学の浅井一久准教授は、現在の喘息治療に追加する副作用の少ない補完的な対処方法として、イムバランスの摂取は勧められる結果であり、さらにメカニズムを検討して創薬にもつなげていきたい考えを示しています。
今後のさらなる研究成果の報告が期待されるところです。
筋肉から分泌されるホルモン「マイオカイン」って一体何だ?
~真剣に「運動不足」について考え直さないと…、運動と健康の関係~
皆さんは「マイオカイン」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
実は私は、つい先日にこの言葉を知りました(勉強不足でスミマセン)。
しかし、「マイオカイン」について調べてみると、私にとってすごく興味深い内容がずらりと並び、これからの研究成果次第では、一般の方々にもよく知られる「健康キーワード」のひとつになるような印象を受けました。
さて、前置きが長くなりましたが、「マイオカイン」とは、「筋」を意味する「Myo」と「作動物質」を意味する「Kine」の用語で、骨格筋から分泌されるホルモンの総称です。
現在は約30種類ほど見つかっているそうですが、その働きがわかっているものはまだごく一部で、ほとんどが研究途上の段階とのこと。
しかし、その一部だけでも知ると「なるほど」と納得させられるもので、今後の研究に期待が高まります。
現在、健康への働きがわかっている主なマイオカインは「インターロイキン―6」、「アディポネクチン」、「SPARC」、「アイリシン」、「FGF-21」などです。
ここでちょっと勉強されている方は、「えっ?」と思われるかも知れません。
例えば、「アディポネクチン」って脂肪細胞や肝臓から分泌される肥満を解消し糖尿病や脂質異常からくる動脈硬化を防ぐ作用があるホルモンではなかったか・・?と。
そうなんです、その通りなんですが、実は最近になって筋肉からも分泌されることがわかってきたんです。
「インターロイキン―6」も免疫細胞から分泌される免疫調整に関わるサイトカインのひとつということはよく知られていましたが、これも最近になって筋肉から分泌されて肥満や糖尿病を防ぐ作用があることがわかってきました。
その他にも、大腸がんや認知症などの様々な疾患とマイオカインとの関係も明らかになってきています。
運動すると健康に良いということは議論の余地がないほどよく受け入れられていますが、筋肉を動かす運動の何がどのように体に作用しているのかということまではっきりとわかっていない部分も多くありました。
しかし、マイオカインの研究が進むにつれて、運動が健康に良いという理由を理論的に示すことができるようにもなってきました。
高齢になるに伴い筋肉の量が減少する「サルコペニア」はご存知のことと思いますが、「サルコペニア」を防ぐために無理のない運動をすることも大切です。
なぜなら、筋肉量の減少と認知症とのかかわりがわかっており、運動をすることで分泌されるマイオカイン(IGF-1、BDNFなど)が脳の神経細胞を活性化し認知症を予防する効果があることがわかってきました。
このように様々な病気の予防・改善と関係しているマイオカインを効率よく分泌させるために、「たかが運動」ではなく「されど運動」で、しっかりと運動の大切さを認識してまいりたいと思います。
製薬メーカーもマイオカインを医薬品にすることにも熱い視線を送っているようですが、それはまだまだ研究が進み、もっと詳細が明らかにされてくるのを待たなければなりません。それより、運動することによって自分で分泌するマイオカインを増やしていく事であれば、すぐにでもできることかと思われます。
そういう自分も歩くより車に乗ることが多く、運動不足になりがちですが、私みたいな方は、「ゆっくりスクワット」も良いそうです。椅子に座ったり、何かにつかまりながらでも、とにかく「ゆっくりスクワットをする」などのように、できる範囲で行うようにするのも健康維持のひとつに良いことだと思います。
さらに、どうやらこの「マイオカイン」は、長寿との関係もあるそうですが、長寿との関係といえば「ミトコンドリア」が思い浮かびます。
「ミトコンドリア」と健康の関係も明らかにされてきましたが、運動をすることで筋肉量の減少を抑え、ミトコンドリアの数の減少を抑えることも大切で、やはり運動は健康維持と深い関係があるのですね。
腸内環境と健康の関係
2021年9月号の「くすりの話」の中でも腸内環境を整えることの大切さをお伝えしたように、腸内環境と健康には深い関りがあることは研究者の中でも受け入れられるようになってきました。
近年では、「脳腸相関」という言葉も使われるほど研究が進んでいます。
即ち、単に「腸内環境を整える」というだけではく、腸内細菌叢の「質」が問われるようになってきました。
特に、「うつ」や「自閉症」、「ストレス」と言った神経系の疾患と腸内細菌叢の研究がよく進んでいますが、最近では「認知症」との関係も明らかになりつつあります。
例えば、国立長寿医療研究センターの研究では、認知症患者は「バクテロイデス」という種類の腸内細菌が少ないことや、細菌の種類そのものが少ないことがわかっています。
その他にもある種の乳酸菌やビフィズス菌を摂取すると、認知機能を評価するMMSEというスコアが有意に改善されたという報告もあります。
うつ病などの精神疾患と腸内環境との関係では、うつ病の患者は健常者と比べてビフィズス菌や乳酸菌の数が少ないこともわかっています。
さらに自閉症の患者の腸内環境が改善すると症状が軽減したという結果報告もあります。
腸内細菌移植医療という分野が進んでくる予感がしますが、現時点ではまだ研究段階にとどまっているようです。今後、腸内環境と健康の関係の詳細が明らかになるにつれて、一気に腸内細菌移植医療という分野が発展してくるかも知れません。
詳細が明らかになるまでは、とにかく善玉菌と言われる乳酸菌やビフィズス菌をしっかり摂取するように心がけたいものです。
アンチエイジング(抗加齢)で注目される「NMN」
最近、アンチエイジングの研究の中で、「NMN」という物質がにわかに注目されています。
「NMN」とは、ニコチンアミド・モノヌクレオチドの略で、生命維持に欠かせない補酵素として知られ、健康と寿命を司るサーチュイン遺伝子を活性化することが知られています。
少し前になりますが、NHKの番組でもブドウの皮などに含まれるポリフェノールの1種のレスベラトロールが「サーチュイン遺伝子」を活性化させることが放映され話題となりましたので、「サーチュイン遺伝子」という言葉は、耳にしたことがあるのではないでしょうか。
人生100年時代と言われて久しいですが、加齢とともに筋力も衰え、肌にシミやシワが目立つようになり、視力や体力が落ちてくることや、さらには、病気のリスクも高まり、認知症も気になってくると、手放しで喜んでばかりいられません。
このような老化に伴う悩みが解消されれば、「健康長寿」として大いに歓迎されるところです。
そこで「NMN」が「若返りの秘薬」としてにわかに注目されてきたわけですが、「NMN」は、もともと人間の身体の組織や細胞に存在する物質で、体内でNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に変化し、老化や寿命をコントロールするサーチュイン遺伝子をつくりだし、全身のさまざまな機能を回復させることがわかっています。
NMN研究の第一人者のワシントン大学医学部教授の今井眞一郎氏らの研究グループは、2007年からマウスを用いた研究をスタートし、1年間毎日「NMN」を与えたところ、見た目、運動能力、活動量が細胞レベルで若返り、明らかな老化抑制効果が認められたことを発表しています。また、本年4月には、55歳~75歳の閉経後の糖尿病予備軍で肥満女性25名による臨床試験を行い、糖の取りこみ機能の改善が見られたことを論文で発表しています。
今井眞一郎氏によれば、「NMNは、老化を食いとめ、健康寿命を延ばすことが期待される物質です。ところが、体内のNMN量は加齢によって減少し、それに伴い、NAD量も減っていきます。
そこで、化学的に生成されたNMNを、体外から補充することを考えたのです。
現在はヒトを対象にした臨床試験も重ねており、その結果は、近いうちに発表できると思います。とはいえ、人間における抗老化作用が確認できるまでには、もう少し時間がかかるでしょう。
NMNはまだ研究段階で、解明できている点もあれば、解明されていない点もあります。それを理解し、しっかり研究に取り組んできた専門家が発信する情報に基づき、納得の上で活用いただきたいですね」と述べています。さらに現在では、NMNの脳への作用を重点的に研究しており、その結果は年内には発表される見込みだそうです。
以上のように「NMN」は、アンチエイジング分野で注目されている成分ですが、上述のレスベラトロールのサーチュイン遺伝子活性化作用は、ミトコンドリア増加作用によるものと考えられていることから、「NMN」のこれらの作用もミトコンドリアの増加作用に関与している可能性が考えられます。
ミトコンドリアの増加作用といえば、皆様ご存知の「PQQ」が有名ですが、その作用はなんと「NMN」の約1,000倍も強いことが実験によって知られていますので、「PQQ」もまたアンチエイジング分野でもますます注目されるようになってくるのではないかと期待されるところです。